そろそろ怒られてしまうかもしれないけれど,スタートアップ法務に関する会話をもう少し続けてもらうことにしよう。
前回の話が行われてからしばらくたった後,また,メンバが集まってスタートアップ法務について話している(なお,登場人物の発言は私の意見を代弁するものではありません)。
(前回の話はこちら)
前回の3人で会話しているところへ人が集まってきたようだ。
RK。 61期。パートナー2名,アソシエイト4名の知財ブティック系事務所所長。設立3年目。意識高い。
KT。74期。修習中。弁護士にはなりたいと思っているが,他へも気移りしている。軽薄。
UT。61期。数名の弁護士で運営する経費共同型の事務所に所属。スタートアップ特化型の事務所に5年勤務した後,独立。取扱業務は企業法務全般。中高一貫名門校のサッカー部。派手好き。
あれからスタートアップ法務についていろいろ話を聞いてきました。
ほう,それで結局,スタートアップ法務が何なのかわかった?
それが・・明確な定義はわかりませんでした。要するにスタートアップに対して法務サービスを提供するっていうことみたいです。とにかく,スタートアップ法務に関わってる先生方はみんな楽しそうでイキイキしてるのが印象的でした。
結局,クライアントのカテゴリを意味するだけっていうことか。外部投資家を入れてなくても自己資金とか融資・補助金でおもしろいことやってる会社はたくさんあるけれど,そういうのは対象にならないんかな。
うちは一般民事の中でも特にお年寄りの依頼者が多いから老人法務って名乗ろう。
IO。61期。一般民事系の事務所に4年ほどイソ弁をした後,首都圏近郊で同期と独立。その後また別の同期と共同事務所経営。一般民事中心。ワイン,料理好き。いろいろと緩い。
投資家のほうを向いて仕事していないか
前もオレはそういってたよ。スタートアップっていうのは,VCを始めとする外部投資家に投資してもらって成長と発展を加速し,IPOなどで投資家にリターンをもたらす特殊な事業形態だから,そういうストーリーを理解したうえでサービスを提供することが重要なんだよ。
そこがしっくりこない。だって,クライアントはスタートアップ企業そのものなんだろう?なんで投資家のためになるようなアドバイスしなくちゃいけないんだ?利益相反だよ。
個別事案でコンフリクトしなければいいんじゃないですか?先生だって,このまえPAE*1の代理していたけど,その前は逆のパターンで「トロールだ,権利濫用だ!」って激しく抵抗されてたじゃないですか。
いつのまにそんな生意気なことを言えるように・・オレが言ってるのは,弁護士法でいうところのダイレクトなコンフリクトじゃないけれど,個別事案において,クライアント以外の利益を考慮することが問題だっていうことで。要は,次に仕事をくれるかもしれないVCとの関係を気にしてるんでしょ。
その見方はちょっと近視眼的過ぎるな。普通のトランザクション系でも,取引相手や関係者とWin-Winになるようなアドバイスすることあるでしょ。特にスタートアップコミュニティでは変なことしたらすぐに締め出されるんだから,エコシステム全体で物事を考えることが重要だよ。投資契約,株主間契約だって,以前は株式買取条項など,エグい内容になってたけど,最近はそうでもないでしょう。お互いのバランスが取れるようなアドバイスするっていうことはごく普通のことだよ。
がイメージしてるのは,調子がいい場面のときだよね。実際,会社がうまくいかなくて,きれいにExitできないときとかって,投資家とスタートアップというか創業者との関係は悪くなるよね。ああいうときにちゃんとクライアントや創業者の利益を考えてるかね。
そのときにちゃんと対応するかどうかっていうのは事務所やその弁護士個人の問題でしょう。スタートアップ法務のみんなが胡散臭いみたいな言い方は違うと思う。
事業分野に応じた専門性が必要
なんかスタートアップ法務は簡単,みたいな風潮があるかもしれないけど,それは違うな。フィンテック,最近だと暗号資産とかそのほかにも新しい金融サービスのコンプライアンスとかになると,正直,スタートアップ系事務所では怪しいところ多いな。ちゃんと金融庁に出向してた人とかがいるような大手とかブティックに頼んだほうがいい。
TM。61期。四大。M&A・コーポレート中心。米国留学,ロシアでの提携事務所勤務1年間を経て,パートナー1年生。小心者。
まあ,それも一つのポジショントークだよな。でも,フィンテックに限らないけど,結局スタートアップってギリギリを攻めていくわけだから最先端の分野に明るくないとできないよね。スタートアップなんでもできるっていうのは,それ自体無理がある。
レギュレーションが絡む分野だと,そこに強い事務所をリテインしたほうがいいだろうね。でもスタートアップがみんなそういうわけじゃない,というかほとんどは違う。
パーソナルデータ関係も結構怪しいまま走っているところ多いよ。あの分野は怖い人たちが多いから,一回火がついちゃうと,もう立ち直れない。
確かに。詳しくは言えないけど,うちのクライアントも過去にめっちゃ叩かれたことがある。「顧問弁護士誰だよ!」とか書かれてヤバいと思ったけど,あのとききちんと対応してクライアントの信頼はちゃんとキープできたよ。
スタートアップとの関わり方
スタートアップの分野で活躍している先生方って,そのコミュニティというか,その中にいる人が好きなんだと思います。
好きかどうかっていうのは知らんけど,仮にそうなら,VCに入ったり,スタートアップの中に入っちゃえばいいんじゃないの。
それも有力な選択肢だろうね。実際そういう人も増えている。
まあでも,スタートアップと仕事するなら早くからやった方がいい。というか,若いうちのほうが活躍できるだろうね。
どういう意味ですか?
創業者と世代が近い方が仕事も頼みやすいんだと思うよ。なんだかんだいって自分も10年たってみる,クライアントの経営者の平均年齢も10歳くらい上がってる気がする。スタートアップの経営者は若いから,あまりオッサン濃度が高い人を選ばないよね。
確かにこの分野で活躍してる人は30代からせいぜい40代っていう感じだね。「カルチャーフィット」を重視する文化からすると経営者と世代が近いっていうのは重要なのかも。
私はスタートアップの顧問先っていうのはほとんどないけど,IPO前後の会社のいくつか社外役員をやってみて,会社や業界のことを知るには社外役員をやるのがすごく勉強になる。
KM。61期。30名ほどの弁護士が所属する経費共同型事務所のパートナー。二度の出産も,いずれも短期間で復帰するなど剛腕型。ダンナさんは証券会社勤務(弁護士ではない)。
それはそうだね。ビジネスの会話についていけるようになる。
それはそうかもしれないけど,やりたいと思ってやれるものじゃないし。へのアドバイスにはならないよね。それにしても,女性弁護士だと,社外役員候補として声がかかりやすくて羨ましい。
スタートアップも,社外役員も自分には縁がないけど,競争は激しそうだし,歳とるとダメっていわれると,厳しいね。老人法務も悪くないよ。
(了)
*1:Patent Assertion Entity。かつては侮蔑的な意味を込めてパテント・トロールと呼ばれたりしていた。