修習同期・同クラスの高橋喜一さんから著書をご恵贈いただいた。全体で90分ほどで読める、平易で簡潔な本だった。
ご本人を知っているので、敢えて思ったとおりのことを書くと、私の感覚と『違う』と感じられる部分と、『そうだよな』と感じられる部分が入り混じった内容だった。
まず『違う』部分。
私は、顧問契約の数を増やすことを重視していないので*1、「その一番重要なものは、そうです。その企業から顧問契約を獲得することです。」(134頁)、「顧問契約への誘導も忘れずに」(140頁)、「『スポット契約ではなく顧問契約で』と思わせる」(146頁)という表現自体に相容れないものを感じる。とはいえ、これは「顧問契約獲得術」という書名で、それを求める人が読者なのだから、この内容になるのは当然なので、そこを指摘する私の方が的外れだろう。
とはいえ、顧問契約自体はありがたいし、事務所の運営と自分の生活を支えているのは顧問料だから、顧問先との関係は重視している。ただ、自分の場合、最初から「顧問弁護士を探しています」といってアクセスされることは少ないし、仮に最初の面談で「顧問契約を」ときりだされると、「お互い相性もありますので、何か実際の仕事をひとつやってみてから判断したほうがよいですね」「御社のステージだと、顧問弁護士に固定費払うより、もっと別のところにお金かけたほうが良いと思います」と言ってしまうので、顧問契約の「商談」というものがそもそもない*2。
もう一つは、顧問先社長との距離感。もちろん自分にも個人的に親しい「社長」もいるけれど、自宅に招いたり、一緒に風呂に入ったりするような関係はあまりイメージできない。ただ、ここは人それぞれの「哲学」の領域なので、高橋哲学を否定するつもりはない。
次に『そうだよな』と思う部分。
弁護士の仕事の本丸以外の「話し方」「身だしなみ」が重要だという点(86頁、90頁)。当たり前といえば当たり前なのだけれど、自分のことを置いとくとしても、そこに対する配慮が足りない同業者が多いので、そこが差別化の要素になる。
また、企業法務だからといってクールに行き過ぎてはだめだという点(180頁)。クライアントからすると他人事のように映りがちというのはそのとおりだろうと思う。時には相談者に共感し、(たとえポーズであっても)感情移入することも必要だろうと思う。私も経営判断としてクライアントに委ねる場面でも、可能な限り「もし私が社長ならば・・としたいところですが」などという後押しや参考意見をするように心がけている。
あと、尋問予定者への案内文(230頁)や、料金表(220頁)。いずれも自分ができていないけれど、これをもっと早くから自分も実践しておけばよかったと思う。
世にある「弁護士、かくあるべし」論と比べると、平易な言葉で簡潔に書かれているハウツー本なので、「これなら自分でもできる」と思わせやすい本だと思う(そういう本に仕上げられるのは高橋さんならでは。)。しかし、これは誰でも努力や心がけさえすればできるというものではなく、個人のキャラに依存する部分が多いので、すべて実践するのは大変だろう。
また、本書を読んでみて、なんだかんだいって自分は知らぬ間に「いい仕事をすれば自然と仕事は来る。」という旧来型の弁護士の考え方になっていたことに気づかされた。
勝手な話だけれど、この本を肴に、10-20年選手くらいの経営弁護士が集まってワイワイやるのも楽しそうだ。