Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

現代の契約法 各論(3) システム開発契約

最近3冊シリーズで出版された「現代の契約法〔各論〕」

 これがなかなか興味深いので気になったテーマを選んで読んでいる。

 

例えば,各論(2)では,「コンサルティング契約」「知的財産侵害訴訟における和解」など。

www.seirin.co.jp

 

各論(3)では,システム開発契約をテーマに以下3つの論考が掲載されている。

www.seirin.co.jp

渕崎正弘「システム開発契約総論―現状と課題・新しい潮流と進むべき方向性」

法律論というよりは,業界の状況,開発工程のこと,欧米との違いなどが書かれており,訴訟などで一般論を述べる際に証拠として援用しやすいなという印象を受けた。

大谷和子「システム開発契約各論―多段階契約のモデル条項・T&M契約」

経産省モデル契約の策定にもかかわってこられた大谷さんが,モデル契約策定の流れや開発契約においてみられる論点と具体的条項の解説をしている。基本的にはベンダの立場に立った論考なので,ユーザの立場からみると疑問・異論もあるとは思うが,実務上の整理には大変役立つ。損害賠償条項において,契約金額を賠償限度額とすることの理由の説明がまとめられているのは珍しいので参考になろう。

遠藤東路「システム開発契約」

裁判官から見た論考で,前半部分の開発契約の解説や契約上のリスクについては,司法研修所から出ている契約分野別研究の文献*1をコンパクトにまとめたような形だ。後半の「裁判上問題となる主要な争点」も,「システムの完成」「瑕疵」など,これまでの弁護士らによる書籍や,判タのプラクティス委員会論考*2などで触れられているものなので,ざっと目を通して全体的に理解したいという人には有益。

 

本シリーズは,はしがきによれば「現代的課題を取り上げる」「理論と実務を架橋する」「それぞれの分野の専門的知見を有する人が執筆する」ということを特徴としているようで,その特徴がよく表れている。すでに多くの研究実績や裁判例が存在する分野であれば,この各論考をきっかけに深堀していけるだろうし,まだ誰も手を付けていないような分野であれば,その先を自分で考えるネタを提供してくれるだろう。

 

*1:司法研修所編『民事訴訟における事実認定 契約分野別研究(製作及び開発に関する契約)』

*2:「ソフトウェア開発関係訴訟の手引」判タ1349号9頁