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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

AI・データビジネスの契約実務

経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の策定にかかわっていた齊藤・内田・尾城・松下弁護士による題記の本を通読した。

いきなり拙著の話になってしまうが,2017年に「ITビジネスの契約実務」という本を共著で出させてもらい,おかげさまで7刷になるなど,多くの法曹,法務部門,システム部門,開発者の方の手に取っていただけた。

ITビジネスの契約実務

ITビジネスの契約実務

 

 同じ商事法務から,取り扱っている契約類型もかなり重なり合っている類書が出たということで,チェックせずにはいられない。なんだかんだで開くのに時間がかかってしまったが,このたび通読した。

 

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巻末の契約条項サンプルを除くと180頁と,決して分量は多くない。だからといって初心者向けの入門書だというわけではない。また,契約条項の解説やサンプルを掲載しているものの,書式集としてそのまま使えるアンチョコ本でもない。使いこなすには,実務とデータ・IT法務にある程度通じている必要があると感じた。

しかし,それだけに,この種の契約に一定の問題意識を持って苦労されている法務担当者や法曹には,かゆいところに手が届いて頼りになる場面も多いのではないか。

例えば,7章のプラットフォーム型契約。経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1 版」(2019/12)*1でも,具体的な契約条項例までは掲載されていなかった類型ではあるが,実務上の留意点から,ビジネススキームの類型を挙げて丁寧に解説され,最終的に契約条項サンプルまで落とし込まれている。

データビジネスは,まだ様々なスキームが考えられるところであり,取り扱うデータの価値・内容によって契約も大きく異なるはずである。なので,本書を利用する場合には,契約条項のサンプルに飛びつくのではなく,考え方・留意点を頭に叩き込んで,目の前のビジネスに当てはめて自分で考えていくことが重要なのだろう。本書は,いいヒントを与えてくれるものと思われる。

また,前記ガイドラインにてデータ提供型・データ創出型の契約条項例が掲載されているためか,本書ではそこは割愛されており,そのあたりの割り切りもいい。

なお,AI・データにかかわる契約実務や法律解釈はまだ固まっているわけではない。本書でも「筆者らの(現時点での)個人的な見解であり,それ以上のものではない」と述べられているとおり(2頁),議論の途上にあるのだということを意識して利用し,時には「いーや,そうじゃない,自分はこうだ」という信念をもって実務に向かっていくことも必要だろう。