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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

BLJ特集「法務のためのブックガイド2018」における「ITビジネスの契約実務」の評価

BLJが届いたので,さっそく話題になっているブックガイド特集を読んだ。


毎年恒例の企画で,自分の評価と比べたりしながら楽しませてもらっているわけだが,今年は2月に自著「ITビジネスの契約実務」を出しているので,その評判が気になる。


年々,匿名品評会での辛口レベルがだんだん上がってきいるので,いろいろと厳しいコメントもあるだろうなとドキドキしつつ,多数の新刊の中で取り上げられるかどうかもわからないから単なる自意識過剰だろうと思いながら。


思ったより多くの箇所で取り上げていただいた。


まずは,匿名品評会から。(22頁)

C「伊藤雅浩・久礼美紀子・高瀬亜富「ITビジネスの契約実務」は,クラウドサービスの利用契約や,IoT・ビッグデータ・AI時代において今後さらに重要性が高まりそうなデータ提供契約に関する解説が盛り込まれているので購入しました。適度に図表が掲載され,分かりやすいと思います。販売店契約・代理店契約については,ソフトウェア・ITサービス業界に特有の事情にも配慮されていて,これからITビジネスの契約実務を担当する人にお薦めです。また,ベンダ・ユーザいずれか一方の立場から書かれた本ではないので,契約交渉における効率的な合意形成を図るうえで有効だと思います。」


E「商流の解説,ポイントになる条項とその解説,契約書の条項例・参考書式が契約類型ごとにコンパクトにまとまっているので,契約案件を担当する際に便利ですね。データ提供契約について取り上げられているのも興味深いです。」


A「実際にシステム開発に従事したことのある弁護士がメインとなって執筆しているだけあって,開発の流れや実務上問題になるポイントの指摘は的確ですし,巻末の契約条項例のクオリティもかなり高く実用的なのは間違いありません。ただ,読みやすさを優先したせいか,裁判例や文献等の引用が少ないため,根拠が必ずしも明確ではない解説も多いですし(例えば「瑕疵」の定義),ところどころに著者独自の考え方や用語の使い方が明確な留保なく登場したり,中立的なようで,ときどきベンダ寄りの記述が出てくるのも気になります。2017年に出版されたにもかかわらず,民法改正に対する目配りが皆無という点も残念でした。」


続いてユニ・チャーム法務部「AI技術の利活用による事業環境の変化への対応」。(42頁)

ソフトウェア開発委託契約,ライセンス契約,システム保守委託契約,クラウドサービス利用契約といった各種契約について,サンプルが掲載されていますので,規程すべき条項に漏れがないかを確認したり,ドラフトを作成したりするのに便利です。さらに,関連法令・裁判例等を交えた解説が付いており,案件に応じて開発成果の帰属に関する条項等をカスタマイズする際にも参考になります。
(中略)本書は,知的財産の取扱いに関するサンプルや解説が充実しており,こうした検討を行う際には大いに役立ちます。
事業部門が思い描いているビジネスに適した内容を契約書に落とし込むため,契約書の作成,審査などの実務において実際に参考にしています。


そして,ronnorさんによる辛口レビューでも取り上げていただいた。(56頁)

本文200頁,条項例50頁とコンパクトなので,この分野の契約審査を担当するときは,まずは本書を読むべきだろう。


おまけは,あの至誠堂書店の売れ筋ランキングで5位ランクイン!


というわけで,ヘビーユーザにもおおむね好評いただいたということで,ホッとしたところだ。私が本書で力を入れていたのは,5章(クラウドサービス利用規約)と7章(データ提供契約)だったのだが,こちらも注目度が高かったのはありがたい(ただし,実際に実務でよく出会うのはソフトウェア開発委託契約や保守委託契約ではないかと思われる。)。


もっとも,データ取引については,当ブログでも取り上げた*1ように,本書が出た後の動きも激しくて,さっそく全面的に改訂したいと強く思っているところだし,すでに指摘があったように,2章(ソフトウェア開発委託契約)を中心に改正民法を反映したい。