話題になった時期は過ぎたかもしれないけれど,連休中に中村直人弁護士の「訴訟の心得」を読んだ。
- 作者: 中村直人
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2015/01/28
- メディア: 単行本
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最近,類書も出ているけれど,この本は弁護士向け,特に企業法務にかかわる紛争を取り扱う弁護士向けの「心得」である。
構成は,
- 1章「訴訟の見立て」
- 2章「主張」
- 3章「証拠」
- 4章「期日」
- 5章「証人尋問」
- 6章「判決対応」
- 7章「企業訴訟関連の判決とその特徴」
- 8章「和解」
であるが,メインは,1章から4章だと思う。5章(証人尋問)に多くの分量が割かれているが*1,ここは,次に尋問を行う際にもう一度読み直しておきたい*2。
正直なところ,本書を読むと暗い気持ちになる。
というのも,書かれていることは,逐一,納得できることばかりで,首肯せざるを得ないものばかりなのだけれど,振り返ってみると十分に実践できていないことが多く,自己嫌悪に陥ってしまうからだ。
訴訟は,わからないこと,思ったとおりにならないことが多く,喜びよりも悔しさ,残念さを感じることのほうが多い。まだまだスキルを伸ばさなければならない分野なのだけれど,こればかりは実践の中でひとつずつレベルアップしていくしかない。ただ,闇雲に頑張るというだけでは,非効率なので,本書のように,先達の書いた文献は「気づき」を与えてくれるという意味で貴重な文献である。
各所で指摘されていることだが,本書でも,準備書面は「期日直後に起案する」と述べられている(62頁)。これほどよく知られたTipsでありながら,実践されていない(されにくい)ものも珍しいと思われる。自分も以前は,それを意識しつつも,現実には締切が近づいたところで慌てて着手し,所内のレビューやクライアントの確認,証拠の収集が十分でなかったという苦い思いをしたことがある。
最近,事務所の弁護士が増えてきたこともあり,小さな事件でも実質的に2名,3名が関与するようになった*3。そこで,事件ごとに,期日から帰ったら,必ず次の期日までのスケジュールを立てるようにしている。
つまり,書面提出の期限から逆算して,クライアントにドラフトを提示する時期,第一ドラフトの締切り,マイルストーンとなるクライアントの打ち合わせ予定日,証拠収集,調査の期間などである。そうしてみると,期日直後から動かないと(あるいはクライアントに動いてもらわないと)間に合わないことがわかる。打ち合わせの予定が入りにくい関係者がいる場合には,期日直後にスケジュールを抑えなければならないこともある。
さらには,この予定は期日後ではなく,期日直前に大まかに考えておく必要がある。そうでないと,期日で裁判所から『では,被告さん,どれくらい時間が必要でしょうか』と聞かれた際に「できれば8週間ほどいただきたいと思います」『そんなにかかりますか?もっと早くできないですか』「・・と・・を考えると,最低でも6週間は必要ですので,できれば」といったやり取りができないからである。
弁護士として訴訟にどう向き合うか,どう行動すべきかということを強く考えさせられた一冊だった。
最後に,特にグサりと来たフレーズを引用しておく。
長くて30頁あればかけると思われる。数百頁の書面を見ても,筆者ならその10分の1で書くと思うものばかりである(本書47頁)
書き始めたら,他の仕事を途中に挟んではいけない。ちょこちょこ時間を見て,細々書きつなぐなどというのは,最もいけない。人を説得する態度ではない。(本書61頁)
いつか実践しよう,できるところから少しずつ,などと思っていては,いつまでもできない。今,まさに取り組んでいる案件から。