話題の本。企業法務分野で著名な中村直人弁護士が,所内の若手弁護士のための研修を行った際の反訳をベースに書かれたものである(はしがきより)。
感想はだいたい言い尽くされている
この本に関しては,同僚の水野祐がnoteで書いていて,私もここに書かれていることとほぼ同様の感想を持っているので,本エントリは屋上屋を架すことになるのかもしれない。
印象的な個所がいくつかあったので,ブログに書くときに引用するために付箋を貼ったらこんな感じになった。
自己嫌悪になる書
前半3分の2くらいまでが「第I講 弁護士業務の基礎―いろは編」「第II講 仕事の進め方」の心得・指南書で占められている。ここに書かれていることは「重たい仕事から片づけて目途を立てる」「圧倒的なスピード」など,逐一首肯できることばかりだし,自分としても常に意識しているつもりではある。
しかし,これを読む多くの若手実務家はメンタルが削られて自己嫌悪に陥ってしまうのではないか。
「わかっているけど,自分にはできない」と。
そう,書かれていることはごく自然なことであっても,同時並行的に軽重・難易・緩急の混じった多数の仕事をしていると,思い通りにならないことへのストレスを溜めるというのがこの仕事の宿命だから,依頼者を待たせることなく,徹底的に調べ上げて高品質なアウトプットを出すのだ,と繰り返し説かれると,正直なところ,お腹いっぱいになってしまうのである。
だからといって,私は新人弁護士に対し,「ここに書かれていることは話半分でいいから自分のペースでいいよ」などと言ったりするつもりはないし,アソシエイトがここに書かれていることをすべて実践してくれたりしたら大変ありがたい。私自身も,丁寧な仕事をやっていく姿勢をあきらめたわけでもない。
そんなアンビバレントな感情を起こさせる本書なだけに,先ほど挙げた水野祐のnoteにある一節,
雑草には雑草なりの生存戦略がある、くらい言わせてください…そういう感じ(苦笑)。わかってもらえますか?
が妙にしっくりくる。
本書を読んで一番強調しておきたいところ
あ,でも,雑草・エリートを問わず,あらゆる若手弁護士に共通していえることとして強調したいのは,
先輩弁護士が予想しているタイミングとかで,進捗状況の報告があると安心します。「あれ,どうなっているんだろう」と心配になるような若手弁護士とはもう組みたくないとか思っちゃいますから気をつけてね。
という部分(本書12頁)。私も多くのアソシエイトと仕事をしてきたけれど,何度もこちらから進捗確認・催促をしなければならないタイプと,先回りして予定を知らせてくれて,それに遅れることなく仕上げてくるタイプとは,はっきりわかれていた。さらにいえば,上記の「先輩弁護士」を「クライアント」に,「若手弁護士」を「弁護士」に置き換えても当てはまると思われるので,この点は若手に限らず,あらゆる弁護士に通じるものがある。
法律事務所経営
5年目以降の弁護士にとっては,第III講以下が興味深いのではないか。営業の仕方,自分の方向性,事務所の経営など,中村先生の経験談,ぶっちゃけ話も多分にあり,読み物としておもしろいだけでなく,中長期的なキャリアを考えるうえで参考になる。
法律事務所経営に関するところ,端的にいえば,収益分配,経費負担のところは,これまで自分でもいろんな方式を試したので参考になる。結局,何か唯一絶対のベストな仕組みがあるというよりは,集まっている仲間の目的意識に合った方法を選択するしかなく,さまざまな選択肢を知っておくとともに,オープンに話し合える環境づくりが重要なんだろうと思った。
しかし,商事法務と中村直人先生というのは鉄板の組み合わせで,毎年2冊ペースぐらいで新刊が出てますね。私の推しの「訴訟の心得」は中央経済社だけども。