昨年,法務系Advent Calendar 2020で「ふぞろいの弁護士たち」と題するエントリを挙げたところ,多くの反応をいただきました。
masahiroito.hatenablog.com
せっかく描いた絵を有効活用しようと,悪ノリで次のようなエントリも書きました。
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今年は,法務系Advent Calendarには表も裏にも参加していないませんが,を囲んで同期の忘年会が開かれているようなので,その様子を見てみることにしましょう。弁護士も10年を過ぎると,自分がどう生きていくかということだけでなく,後輩・アソシエイト・イソ弁のことで頭を悩ませることが多いようです。
ここで登場する弁護士らはすべて架空の人物で,特定のモデルもいない。私と交流がある人から聞いた話を混ぜたりアレンジした上で,妄想を追加している。仮に特定実在の人物やエピソードと似ていることがあるとしても、それは偶然である。また,各登場人物の発言中の意見に渡る部分は私個人の意見を示すものでもない。人物名をAとかBにするとわかりにくくなるので,イラストを用いているが,敢えて特定のキャラに寄せることもしていない。
RKの悩み
RK。 61期。パートナー2名,アソシエイト4名の知財ブティック系事務所所長。設立4年目。意識高い。
UT。61期。数名の弁護士で運営する経費共同型の事務所に所属。スタートアップ特化型の事務所に5年勤務した後,独立。取扱業務は企業法務全般。中高一貫名門校のサッカー部。派手好き。
珍しく元気がないね。何かあったの?
アソのことでね。なかなか人の育成って難しいよ。
kwsk
KM。61期。30名ほどの弁護士が所属する経費共同型事務所のパートナー。二度の出産も,いずれも短期間で復帰するなど剛腕型。ダンナさんは証券会社勤務(弁護士ではない)。
いつもの体育会のノリで厳しく追い込んだんじゃないの?そういう修行型スタイルはもう通用しないって。
一人
は,いろいろ言ってもなかなか期待どおりの動きをしてくれないんだよね。だいぶ我慢してるけど,やっぱりslackとかでもつい厳しいことを言ってしまうときがあるよ。もう一人
は,逆に,
非常にいい感じで育ってきたと思ってたけど,こんど辞めちゃうんだ。
え,俺も会ったことがある,あの
がやめちゃうの?彼女は結構しっかりしてたよね。
TG。61期。修習地である地方で就職し,2年目で独立。自宅・事務所・裁判所はすべて徒歩数分圏内。弁護士会副会長経験あり。イソ弁1名。事務員3名あり。クルマは自分用にAMG E53と,奥さんのGLC。悠々自適。
KN。70期。修習を終えて,立ち上げたばかりのの事務所に最初のアソシエイトとして参画。知財事件を主に取り扱う。3か月後に辞める予定。
AZ。71期。修習を終えて最初に入った事務所を数カ月で辞めて,の事務所に参画。いつもに怒られている。
キャリアパスを示せているか
そうなんだよ。うちみたいな小さな事務所が採用するのって,率直に言えば大手や外資に入れなかった層を狙っていくわけだけど,そうなるとどうしても最初のうちは頼りないわけ。でも,
せっかく3,4年経ってしっかりしてきたかと思うと,転職とか独立しちゃうってなると,やってられんよ。
キャリアパスをうまく示せてなかったんじゃないか。うちみたいに大手でもその問題はあるけれど,ちゃんとやってればパートナーになるっていうところは見えるし,どういう人がアソシエイトからパートナーになるのか,というところも見える。その点,圧倒的なパワーで仕事も取ってきて事務所回している
がいて,パートナーに昇格した人もいないとなると,そこに
将来残る姿が見えないんじゃないかな。
TM。61期。四大。M&A・コーポレート中心。米国留学,ロシアでの提携事務所勤務1年間を経て,パートナー2年目。小心者。
大きい事務所はアソからパートナーへの移行がシームレスだったりするけれど,普通の事務所の場合,
お金をもらう側から急に払う側になるからね。パートナにしてあげるよ,って言われてもむしろ不安しかない,っていう若手は多いんじゃないかな。そこは制度設計をちゃんとしないと。
それはわかってて,パートナーへの移行の仕組みを考えてるところだったんだよね。ただ
はまだ早いからもう数年先かなとは思ってたんだけれども。
よく働いてくれるアソのリテンションは前の事務所でも話題になってたと思うな。自分はパートナーから見れば使えなくて無言の圧力を受けながら抜けてきたから,逆なんだけど。あの追い出し方は参考になると思うよ。
なんだかんだで
はうまくやってるから,今ごろ元ボスは残念がってると思うよ。でも,結局,弁護士が弁護士を育成するっていうのは,現実的なのかな。
自分は誰かに育ててもらったっていう感覚はないし,できる人はできるようになるし,そうでない人は,いくら指導してもダメなんじゃないの?
まあ,育成限界説というのはどこでも言われてるよね。結局,ボスはいい機会を提供することが最大の責任で,それで成長してくるかどうかはアソ次第。
大手事務所は替えがたくさんいるし,最初から優秀な人ばかり集めてるからそういうことがいえるだけ。うちみたいな1年に1人も採用できないところは,そうやって達観してても問題が解決できるわけじゃないんだよ。採用しないと仕事が回せないし,採用した人は全員戦力になってもらわないといけないから,
確実に戦力になるためにどうしたらよいかということは考える必要がある。戦力になっていなくてもサラリーは払わなくちゃいけないんだし。
ダメなアソっていってた方は,具体的に例えばどういうところがダメなの?
IO。61期。一般民事系の事務所に4年ほどイソ弁をした後,首都圏近郊で同期と独立。その後また別の同期と共同事務所経営。一般民事中心。ワイン,料理好き。いろいろと緩い。
タスク管理・コラボレーション
言い出したらキリがないけれど,
一番の悩みは期限のことかな。仕事をお願いするときって,だいたいこれくらいで仕上がってくるよな,っていう期待ってあるじゃない。全体的にレスポンスが悪いし,こっちが聞かないといつまでに仕上がるのかも言わないし,期限に遅れることもしばしばだし,こっちとしては小言も言いたくなるわけよ。
そのあたりはもともと備わっているかどうかっていうのが大きいけど,自分の客だっていう感覚がないのかもしれないね。ボスの仕事だと思うと,なんとなく魂がこもらないっていう人は多いと思う。
実入りが変わらないんだったら「自分の客だと思え」って言っても無理だよ。会社経営者が「会社の金は自分の金と思え」って言っても「オーナーじゃねえんだから知らねえよ」ってなるだけだし。
でも弁護士って,いつかは自分の客をとっていかなきゃいけないわけでしょ。ボスから仕事をもらってるうちにそういう感覚を身に着けておかないと。
そういう感覚って,どうやったら身に付けられるものなんだろうか。
だから繰り返しになるけど,それって指導とかそういう問題じゃないよ。本人のやる気の問題。
まあでも,この仕事やってると
クオリティも大事だけどスピード命だってことはよくわかる。さらにいえば,
スピードも大事だけど,クライアントを不安にさせないために,「明日には回答します」「すみません,追加で検討することがあるので1日延ばさせてください」などと,密に連絡を取ることが重要。そこはちゃんとアソに仕込むべきだよな。
そういう話は,50万回くらい話してるんだけどなあ。
言うだけじゃダメだろうね。
マインドが変わらないならば,仕組みを変える。Notionとかサイボウズでもいいけどタスク管理ツールとかを入れて,指示するときには必ず納期を指定し,それを守ることが最優先だっていうことにする。
レビュー後の対応
起案とかは丁寧に赤入れとかしてるの?
そりゃもう。いまだに真っ赤にしてるよ。でも,「赤入れしたから内容よく確認して。オレ間違ったこと書いてるかもしれないから,何かあったら言って」ってお願いしてるけど,毎回「ありがとうございます」っていう返事とともにそれがそのままクライアントや裁判所に行っちゃう。ちゃんと見てるのかと。
それは全国のボスがアソに対する愚痴として挙げてるね。まあ,確かにそうやってしっかり直してくれる人がいると,最初からそれを期待して「こんなもんだろ」っていうドラフトを出してくる人もいるからね。
オレはボスが直したやつを右から左へ流してた人間だからわかるんだけど,別に見ないで送ることなんてしてないんだよ。ざっと見て,修正履歴をフィックスしながらなるほどな,くらいは思う。でも,そこでもう一度疑ったり,再修正提案したりするのは時間的余裕がない。他に仕事がありすぎるからだから,アソのやる気がどうこうという話じゃないよ。あー,今となっては自分の起案は誰も見てくれないから,そういうの懐かしい。
想定外の動きをする新人たち
でも,
がいなくなっちゃうと,ますますその
にがんばってもらわないといけないからキツイね。
でも
も最初に比べるとだいぶよくなってるんだよ。最初なんて,100%負けしかない被告側の訴訟で,クライアントも何とか支払期限だけ猶予をもらいたいっていう事案で,争えるところはないけど,まず答弁書作ってみようってお願いしたら,
「原告の請求を認諾する,との判決を求める」っていう答弁を書いてたからね。
え,それいくらなんでも今つくったでしょ。嘘松すぎる。ツッコミどころが多すぎて。
そのときは,とんでもない新人を取ってしまったぜーと思ったんだよ。最初の事務所では一回も訴訟やったことなかったらしくて。それから2年経つけど,うーん,どうやれば成長するのかわからんよ。
実は,俺も今年はじめて新人を取ってたんだけど,4カ月でやめちゃってさ。
えー,何それ。初めて聞いた。なんで?
の話と同じで,やっぱり最初からどうにも動きがよくなくて。お願いしたことが全然期限までに上がってこないし。本当に簡単なことだけお願いしていたら,そのうち事務所にも来なくなっちゃったんだよね。
俺のせいでメンタルやられたって言われたけど,それ俺のせいじゃないでしょと思ったよ。
人の育成は避けられない
そういうの聞くとますます自分はアソを採用する気が起きないね。
でもさ,これから
20年先でも全部自分で手を動かすつもり?おっさんや爺さんが1人でやってる事務所を痛い目で見てない?それ将来の自分の姿だよ?クライアントも若い人が入ってある程度チームで対応してるからこそ安心してお願いできるってことない?自分だけある程度稼いで逃げ切ろうっていうのは,まだ元気な時だからこその発想だよね。
ピークを過ぎてから後進を育てて楽をしようと思っても,誰もそんな人に付いていきたいと思わないし,もう遅いよ。いいよな,大手は放っておいてもどんどん有能な若手が集まってくるわけだから。
うちら
大手が採用や育成にどれだけ工数と費用をかけてるか知ってる?採用の季節になると,みんなずっと面接して飯も食わせるし,忙しいのに大変なんだよ。面接と会食だけじゃなくて,サマクラとかだって準備と対応が大変なんだから。逆に,そうやって苦労して採用した人が,早々にインハウスに行かれたりするとスゲーがっかりするよ。
もともとそうやってある程度抜けることを想定して採用してるわけでしょ。全員残ったら困るんじゃないの。
そう,「うちは全員パートナーになってもらうつもりです」みたいなこと説明会とかで言ってたりするけど,
あれはただの綺麗事。
今日は
がだいぶ毒づいているね。やっぱり
がやめちゃうっていうのが相当堪えてるのかな。
いやー,実は・・
まだあるの?何?
さっきのダメなアソ
っていってたやつなんだけどさ,あいつも
が辞めちゃうことを知ったのね。そしたら
が,slackで
「さんがやめてしまうとの悪口を言い合える人がいなくなるから寂しいです」
って書いてんの。しかもバカだからDMじゃなくて間違えて俺も見てるチャンネルに書いてるし。
「
悪口を言い合える」だよ。
だけじゃなくて
まで俺の悪口言ってたってことでしょ。
それになんか反応したの?
軽いノリで
それは気まずすぎるでしょう。
はもう事務所に来られないでしょ。それに
も巻き添え喰らってるし。
その事故,さっき起きたばっかりだから。だから暗いの。
うん,今日はカードロシアンルーレットに参加しなくていいよ。俺たちが払うよ。
・・結局,気まずさに耐えられなくなった
は,
と前後するように
の事務所をやめたという。
(おわり)