Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

卒業後の進路(1)

ロースクール卒業後も,修習中も,実務についてからも,受験生・後輩らから相談を受ける内容としては,試験勉強の方法よりも,卒業後の進路,就職に関するものが多い。


先日やらせていただいたセミナーもその種の内容だった。ここで,これまでのエントリで書いてきたことや,セミナーでしゃべったことと重複することを覚悟の上で,これまでいただいた相談をベースに,私が考えてきたこと,お話してきたことをまとめてみることにしたい。


ロースクール入学後の進路にはいろいろあるが,とりあえずロースクール卒業,司法試験合格する意思がある人,そして裁判官,検察官よりも弁護士になることを志望している人を前提に書いていこうと思う。おそらく圧倒的多数の人はここに含まれると思われる。


第1 現状について


まず,こういった話をする際には,現状というか逆境について意識をシェアしておきたい。私の主観も含まれるが以下の3点がとりあえずの現状だと思う。


(1)法曹人口は増えている。


客観的数値を持ち出すまでもないが,現在弁護士数は27000人ぐらい。ここ数年,新旧試験合わせて毎年2000人以上は増えているし,死亡などで減少する数を差し引いても,年率7%ぐらいの割合で増えているのではないだろうか。合格者を3000人に増やすという方針が多少緩和されたとしても,増加傾向は変わらない。


しかも,増加に合わせてマーケットの規模が拡大しているわけではない。当然,シェアの奪い合いになるわけで,競争が激化していることは言うまでもない。


(2)就職活動は圧倒的買い手市場である。


これも,(1)からすると当然のこと。1名募集する事務所に200名ぐらいの応募があるなんていうことも現実に発生している。倍率が上がるため,応募する側もたくさん履歴書をばらまくから,ますます倍率が高くなるという悪循環が起きている。


一部のスペック美人を除いては,事務所選びというスタートラインの段階で苦戦を強いられることは間違いない。


(3)新制度に対する批判・疑問を持つ人はいる。


個別に反論するかどうかはさておき,「合格者が増えた→質が下がった→新制度の合格者は採用を控えよう」というロジックの諸先輩方はいないわけではない。相応の努力をし,実力をつけてきたとしても,不利な扱いを受ける場合がありうる。


これは単なるノスタルジーや偏見ではなく,確かに合格者が増えればノイズの混入率も増えるわけで,この種の批判にいちいち反論しても仕方ないことではある。


(4)社会人出身者に対する評価は高くない。


本来の制度趣旨からすれば,社会で経験を積んで,法律知識・スキルの重要性・必要性を知った上で法曹資格を取った人というのは,歓迎されるべき存在だといえる。


以前も当ブログで紹介したが,


弁護士の就職と転職―弁護士ヘッドハンターが語る25の経験則

弁護士の就職と転職―弁護士ヘッドハンターが語る25の経験則


の93〜94頁で,

・・企画部門を担当したという経験はどう評価されるだろうか。産業界と折衝した経験はどうだろうか。銀行界から譲歩を引き出した経験はどうだろうか。それは,貴重な経験である。他の弁護士にはない経験を積んだのだろう。でも,それが「弁護士の業務」として何に役立つのかは未知数である。

(中略)

このとき,パートナーの目には,「自分が知らない経験」であるが故にその経験は「弁護士業務にとって不要な経験」と推定されて映る。「他人がやっていない経験を積む」ということは,それだけでは「商売としての弁護士」には役立たない。

「ユニークな経験を積んだこと」を「弁護士としてのキャリア」に活かすためには,さらにもう一歩「これは,こういう依頼者のこういう事件に役立つ」というところまで結び付けて論証する努力が求められる。


とあるように,社会人経験が,法曹人生でどう生きるのか,ということをきちんと論証しないと,評価されないのは当然である。ただし,多数の応募がある現状においては,論証の機会すら与えてもらえない可能性もある。


ここからわかることは,事務所選びの段階においても,仕事をし始めてからでも,他の人と同じことを考えて,同じように行動したのでは,スペック競争に陥るだけで,厳しいばかりである。


そこで,他の人は考えないことを考えて,他の人とは違う行動を取るべきではないか,と思う。


(つづく)