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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

ITビジネスの契約実務

商事法務さんから,新刊本を出させていただくことになったので,その宣伝。


ITビジネスの契約実務

ITビジネスの契約実務


私個人としては,本格的に書いたものとしては,2015年の「システム開発紛争ハンドブック」*1に次ぐ2冊目で,少しだけ執筆に加わった,というものを含めれば5冊目*2


同じ事務所の所属する3人の弁護士,しかも,毎日すぐ隣で一緒に案件に取り組んでいる3人の共同執筆。担当を分けてそれぞれ独立に執筆したというよりは,それぞれのテーマを議論し,ドラフトをたたき合い,校正も全員が全部を行ったという意味で,共同著作といえる。


本書執筆の動機や,趣旨をはしがきから引用しながら紹介する。

(略)特に,ITビジネスに関する契約実務においては,複雑な取引内容や技術に関する一定の理解が必要であったり,起案から締結まで迅速性を求められたりするなどの傾向があり,迅速に「良い契約書」を作ることが重要ながらも,著者は,現場ではこのことが十分に認識されていないという印象を受けている。
(略)
本書の筆者は,いずれも弁護士法人内田・鮫島法律事務所に所属し,席を立たなくてもお互いの顔が見える距離で,普段からITビジネスに関わる契約実務,紛争処理のプラクティスを行っている3名の弁護士である。日々,この3名が意見や情報を交換しながら弁護士業務を行っていく過程で,不可解な契約書を多く目にしたり,「契約書」の重要性が理解されていなかったりすることを感じており,そのことが本書執筆の動機となった。


本書の主要な目的の一つは,ITビジネスの契約類型別のサンプル条項を掲載し,その解説を試みることにあるが,必ずしも単なる契約ひな形の逐条解説を目指すものではない。むしろ,契約類型ごとに,ビジネスの特性を踏まえた取引条件を契約書に落とし込むための留意点や,民法や知的財産法を中心とする法適用関係の解説,関連する裁判例の紹介などに力点を置き,各契約類型の本質的理解のための実務的な視座を与えることを目指している。(略)

この分野は,長らく「ソフトウェア取引の契約ハンドブック」(1989年)*3という吉田正夫先生の手による名著があった。しかし,いかんせん同書の出版から四半世紀以上経過し,初版から改訂されていないことからすると,近時の技術の進歩,取引形態の変化,法改正には必ずしも対応していなかった。おこがましくて,この本の後継とは到底いえないが,目指したのはこの本のように多くの人に長く読まれる本である。


読んでもらいたいポイントはいろいろあるのだけれど,ソフトウェア開発委託契約では,交渉でクローズアップされがちな「請負か準委任か」という単純二分論に異議を唱え,これらは交渉によって勝ち取るものではなく,業務の実態に合わせて選択していくものであるという点や,ビッグデータ時代におけるデータ取引という類型を設けて解説している点などは実務で悩まれている方に一つのヒントを与えることになるのではないかと思っている。

*1:https://www.amazon.co.jp/dp/4908069166

*2:ほかには,「技術法務のススメ」(2014年,https://www.amazon.co.jp/dp/4817841680),「インターネットの法的論点と実務対応」(2014年,https://www.amazon.co.jp/dp/4324097682/),「業種別ビジネス契約書作成マニュアル」(2015年,https://www.amazon.co.jp/dp/481784275X

*3:https://www.amazon.co.jp/dp/4320024915