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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

第2回契約書タイムバトル

11月30日,「第2回契約書タイムバトル」にジャッジとして参加した。


第1回は今年の5月。とてもシュールなイベントかと思ったら,大変盛り上がってeスポーツとして成立していた。
masahiroito.hatenablog.com


第1回の終わりに,主催の橘さんが,次はAIとマッチメイクする,と宣言していたが,それがわずか半年後に実現。リーガルテックの進歩もあるけれど,クラウドサインさんの企画力,行動力が素晴らしい。

www.cloudsign.jp


第1回同様に,告知後まもなくチケットが売り切れるという人気ぶり。詳細なルールは,リンク先のとおりだけれど,今回は,人間と,AI(正確には,本物の起業家がAIのサポートを受ける)が戦う。


ちょうどこの日,出場したLegalForceさんが,5億円の資金調達を受けるというニュースもあり,同社のいい宣伝にもなった。


代表の角田さんとは,今年の夏に会ってサービスを見せていただいていた。正直なところ,まだまだ力不足だなと感じたのだけれど,「あのときからは格段に進歩しています」という自信のほどを見せていた。


バトルの様子は,下記のtogetterにまとめられている。

togetter.com


現在のルールでは,人間の弁護士がまだまだ勝てる。しかし,だからといって,LegalForceが使えないとか,将来的にも期待できないということではない。特に私が魅力を感じたのは,次のようなところ。

リスクの簡易判断

まず,ざっと見て問題がどれくらいあるか,ということを示してくれる。人間でも数分から15分くらいあれば,主要な契約書であればだいたいどんなレベルなのか判断できるが,そこを示してくれることで大枠を外さないで済むのはありがたい。この診断能力はこれからもっと向上するだろう。

抜けてる条項の指摘

一定の契約類型において,通常含まれているべき条項が抜けていたりするとそれを指摘してくれる。人間は「ない」ものを見つけるのは得意ではない。弁護士の日常業務で,毎回チェックリストと対照して抜け漏れをチェックすることはなかなかやれない。もちろん,不慣れな契約類型であれば,定評ある書籍などを横において確認することもあるけれど。


編集機能としては,例えば追加の条項をWordに挿入しても自動的にナンバリングしてくれない,などといった「かゆいところに手が届く」には至っていないけれど,そこは,Wordのマクロ機能などで対応すればよく,AIの本質ではないように思う。


もう一つ,今回登場したリーガルテック系サービスはhubbleで,これは,契約書(ワード文書)のクラウドバージョン管理,Gitというべきもの。第1回の契約書タイムバトルでは,GoogleDocsを使って同時編集をしたが,今回は,hubbleを使用してキャッチボールを行った。現場ではなかなかGoogleDocsが浸透しないこともあり(私もほとんど使わない),このソリューションは「今,欲しいもの」として有効だと思う。


今回は,リーガルテックの到達点を見るという意味ではよかったものの,リーガルバトルという観点では,第1回の人間対人間のほうが,より実務に近い臨場感を味わえたように思う。


コンピュータプログラムの将棋大会が開かれるようになってから,名人を倒すようになるまで30年ほどかかった。契約書AIが登場したのはまだ今回が初めて,私が夏にLegalForceを見たときと今回とでも明らかに進歩している。契約書のレビューとマークアップ作業はそのうちAIが人間を越えてくるだろう。


審査の総評でも述べたのだけれど,こうした流れは法務担当・弁護士として歓迎すべきことだ。ふだん,NDAのチェックや,あるいは大部の投資契約書+株主間契約書のレビューで苦労している人からすれば,その苦労がAIに代替できるのだから。そして,法務・弁護士の本質である,ビジネスモデルを法的観点から検討・整理したり,事実・証拠を収集したり,相手方との交渉,説明したりする作業に注力できるようになることを期待したい。


(うまく1ツイートでまとめていただいたのでご紹介)


しかし,めまぐるしく変わる画面を見ながら判定をしつつ,多くの観客(しかも法務のプロが多い)に対して気の利いたコメントをしなければならないというのは想像以上にタフだった。。


第3回があるとすれば,個人的には,4つの大手事務所からそれぞれ選手が出てきてもらって究極の契約書技を披露し合うバトルが見てみたい。