「法服の王国 小説裁判官」黒木亮(kindle版)を読んだ。
![法服の王国――小説裁判官(上) (岩波現代文庫) 法服の王国――小説裁判官(上) (岩波現代文庫)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/510-eDqBcML._SL160_.jpg)
- 作者: 黒木亮
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/01/16
- メディア: 文庫
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![法服の王国――小説裁判官(下) (岩波現代文庫) 法服の王国――小説裁判官(下) (岩波現代文庫)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51V1HhH30AL._SL160_.jpg)
- 作者: 黒木亮
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/01/16
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巻末の注には「本作品には,一部実在の人物や団体が登場しますが,内容はフィクションです」と書いてあるが,内容的には一言でいうと「戦後日本裁判官史」ともいえるほど,実在の事件,世の中の流れに即している。
戦後まもないころに法曹を志し,青法協に所属する裁判官・弁護士となった主人公たち(架空の人物であるが,複数人のモデルがミックスされている。だいたい司法修習22期が中心。)を中心に物語が進む。話としては,昭和40年ころから,東日本大震災が起きる平成23年までの長大なストーリーである。
登場する事件も,現実のものが多い。長沼ナイキ事件,尊属殺人違憲判決,有責配偶者からの離婚請求,各種原発・じん肺その他公害訴訟のほか,各種裁判官の不祥事,再任・任官拒否事件など,これでもか,というレベル。筆者の丁寧な取材により,事件の様子,裁判所の訴訟指揮等には違和感がない。数多くの参考文献には,「刑事判決書起案の手引き」「検察講義案」「民事判決起案の手引き」や,判例集なども出てくる。
この世代の裁判官たちの人生を描いていくとともに,司法行政の裏側のシーンもストーリーの柱となっている。この部分は,矢口洪一をモデルとした人物を中心に展開される。ここは,私は現実を知らないが,巻末の参考文献や多少聞きかじった知識からすると,かなり現実に近いものだろう。
あくまで「フィクション」だということになっているが,裁判官の仕事,歴史,事件の流れや概要を知ることができるという意味では,法学部生,ロースクール生,修習生らに特にお勧め。q