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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

貸与制の延期を求める声明

今,各地の弁護士会で「司法修習生の修習資金貸与制廃止(または導入延期)」を求める決議がなされているらしい。


司法修習生は,今のところ国から給与が支給されている(通常の民間の大卒新入社員と同程度)。ところが2004年の裁判所法改正により,給費制が廃止され,貸与制となることになった。ただし,その施行は4年間延期とされた。このままいくと,確か2010年の司法修習生からは貸与制となる。


年間300万円ほどの資金が給与としてもらえるか,いずれ返済しなければならないのか,という違いであるが,これまであちこちで触れられているように,弁護士になっても満足いく待遇が期待できないとすると,この違いは大きい。


給与制を廃止する理由としては,いろいろあるが,(1)大多数が民間の弁護士になるのに,国から給与を支給するのは国民の理解が得られにくい,(2)修習生の数が以前より格段に増えたため,財政負担も増している,(3)そもそも司法修習は個人が資格をとるためのものであるから,必要経費として個人が負担すべきだ,などが挙げられるだろう。


ところが,この立法当時とは事情が異なり,合格可能性も低くなり,個人の負担は司法修習にたどり着く以前にとても大きくなっていることから,ますます多様な人材を確保することが厳しくなる,という指摘がある(金持ちしか法曹になることができず,格差が拡大する)。このように,法曹としてのスタートラインに立つ時点で,借金まみれになっている新人たちが,社会正義の実現という目的達成のために,ボランティア的な活動に従事しなくなるのではないか,という危惧も生じている。


現役のロースクール生にとっては,合格者数の増減といった問題と同じぐらい切実な問題だろう。


私個人としては,貸与制だの給与制だのという議論以前に,修習期間を現在の1年間から,さらに大幅に短縮(3から4カ月程度)にすればよいのではないかと考えている。期間が3分の1から4分の1になれば,仮に貸与制になったとしても,負担はだいぶ軽減される。そして,修習も,ロースクール卒業から8か月もたってから開始するのではなく,遅くとも夏ぐらいには開始すれば,実務に就くまでの期間はトータルで1年ほど短縮できるはず。


もちろん,これはかなり極端な議論なので「中途半端な人材が市中に出回ることの弊害」など,異論も予想される。ただ,私やその周りを見る限り,仮に修習期間が大幅に短縮されたとしても,実務に出てからの支障はそれほど変わらないように思う。修習をいくらきちんとやっても,実際に生の事件にコミットすれば,困る時は困るし,間違えるときは間違える。


3,4カ月あれば,1カ月ほど集合修習に費やしつつも,実務修習では,自分が進路として考えているところに期間を集中することで,実務対応力はそこそこ身につく。一生やる予定のない裁判所や検察庁で,お忙しい裁判官・検察官,その他スタッフにご迷惑をかけながら肩身狭く過ごす必要もなくなる。


「修習の同期とのつながりは,実務に出てからも大きい。修習期間が短くなれば,同じ事務所以外の人と接することもなくなってしまう。」などと,ややノスタルジックな指摘もある。ただ,旧試験の時代と違い,新制度ではロースクールを出ていることが基本であり,修習で知り合いを作らなくとも,ロースクール時代の知人がたいていはいるものである。単に人間関係を形成するための期間としては1年は長すぎであり,その間の生活保障もなければ,なおさらである。