Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

割増賃金請求訴訟を究める

昨日,弁護士会の題記の研修に参加した。


午前中は,労働者側代理人の立場から2時間,午後は,使用者側代理人の立場から2時間,さらに裁判官から2時間(裁判官は東京地裁36部の藤井裁判官)。


平成20年のマクドナルド判決以降,「過払金返還請求訴訟の次のブームは,残業代請求だ」という話もチラホラ聞くが,休日の研修にもかかわらず,老若男女問わず非常に多くの弁護士が参加していた。


私は午後の2コマだけ参加したが,3000円の内容で,非常に内容が濃く,資料も充実した研修だった。


時間外割増賃金の計算は,労働関係法規をしっかり理解していないと間違えやすい。そうした理論面の話や,労働時間や管理監督者性の立証などのテクニカルな面,さらには,労働審判との選択や,和解のタイミングなど,戦略面の話まで,かなり幅広かった。特に,最後の藤井裁判官の資料は,「さすが裁判官だな」と感じるほど網羅的で緻密な構成となっており,保存版。


その資料から,労働審判か訴訟か,手続選択について一節を引用する。労働審判は,一般に「ざっくり型の解決を視野に入れたもの」とされているが,「ざっくり型の解決を目指しているからといって,申立書自体がざっくりでよいというわけではなく,申立の趣旨・理由としては,訴状に準じた内容を記載する必要がある。」「(労働日ごとの始業・終業時刻すらも特定しない申立では)ざっくり型ではなく,ばっさり型の解決しか望めない。」と。


冒頭に書いたように,これから,弁護士の食いぶちとして残業代請求訴訟がメインになるか,という話だが,私は,ある程度増えるとしても,そこまでは広がらないだろうと考える。理由はいくつか考えられるが,そのうちの一つは,立証(しかも請求原因レベル)の困難さ。ある程度,効率的に事件処理をするとしても,大量の事件を,事務員を使って処理する,という方法になじまない。要するに,代理人にとってそれほど「おいしい」事件類型にはならないように思う。


また,消費者金融に対する過払い金返還請求は,借り手と貸し手に人的関係がなく,訴える,という行為に抵抗がない。他方で,使用者を訴える残業代請求では,在職中はもちろんのこと,退職後も抵抗が大きいだろう。また,消滅時効(2年)の問題もあり,退職後,長期間が経過すると請求できない。


さらに,ポケットの大きさ。過払い金返還請求の相手方は,大手の消費者金融も多く,大量の請求にもある程度耐えられた(それでも過払い請求の増加とともに破たんする業者も増えた。)。しかし,未払い残業代を発生させている会社は,中小企業も多い。そのような状況で,請求権自体は認められても,回収できないケースも多いとなると,それほどマーケットは大きくないと思われる。