私の所属する事務所は,ほとんどの弁護士が弁理士・エンジニア・理系出身で,そのことを折に触れてアピールしているわけだが,そもそも弁護士に技術の知識・素養が必要か,という命題がある。
以前読んだ,「デキる弁護士,ダメな弁護士」の
- 作者: 内藤あいさ
- 出版社/メーカー: 講談社
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升永弁護士の章の中に,次のようなくだりがある(84頁)。
ある弁護士は,こう言った。
「特許法関連案件で勝訴するのは簡単なんです。そういう案件に技術の知識など要らない。あくまでも特許法上の問題ですから」
しかし,升永はこのように考える。
「やっぱり理系の知識は必要です。特に,その技術に興味を持つことが大切です。特許というのは技術を使うわけですから,その技術が理解できなくて知的財産法の文書が欠けるわけありません。」
実際問題,ディープな技術がからんだ侵害訴訟,審決取消訴訟,無効審判などでは,技術がわからないと,正直言って,書面を書きようがない。なので,「技術の知識など要らない」ということにはならないはず。
私自身,理系出身でありながらも,技術的な素養はかなり中途半端だ。ただ,まだ理系弁護士(?)がそれほど多くない中,情報通信技術に絡んだ部分では,多少,過去の経験・知識が生きたことがある。
以前,無線通信のプロトコルに関する特許の侵害警告を受けた際の対応を行ったことがあるが,このときは,明細書や,警告書,参考資料に数式,行列がずらりと並んでいた。それでも,OSI参照モデルのどのレイヤーの話をしているのか,ということを考えつつ,技術者の説明を受けると,一応,非侵害の主張,根拠が理解できるようになった。
そもそもOSI参照モデルとか,高速フーリエ変換なんて,学部で習ったこと,院試の前に少し勉強しただけで,15年以上先に仕事で役に立つとは思わなかったものだ。
これは一つの例だが,その他にも,ソフトウェアの模倣が問題になった事案で,二つの開発言語間の異同の問題や,レコメンデーションエンジンの実装方法に関する問題などを取り扱った際には,過去の知識・経験が大きく役に立った。
逆に,まったく馴染みがない分野,例えばケミカル・バイオ関係の事案を取り扱ったことはないし,今後,もしそのようなお話があっても,単独で受けることはないと思う。
冒頭の話に戻るが,訴訟だけを取り扱うのであれば,「技術を知らなくとも特許訴訟はできる」といえなくもないだろうが,相談・鑑定のレベルではまったく技術を知らない・興味がないでは,依頼者を満足させる事はできないでしょう。