第1回目を書いてから10日が経過してしまった。今回は,実務修習(特に裁判所,検察庁での修習)に関連することを。
実務修習では,現実にリアルタイムで進行している事件に接することを通じて,法曹3者の実務を見聞し,そして体得することを目的としているわけだが,その一方で,現実的には,裁判所や検察庁では,任官(裁判官になること),任検(検察官になること)志望者のセレクションの場であるという側面がある。
任官・任検志望者は,修習中にエコヒイキを受けることになる。具体的には,難易度の高いand/or複雑な事件を担当させられて手厚い指導を受けたり,進路に関する個別面談が行われたりすることなどである。ここで,「エコヒイキ」などというネガティブな響きの単語を用いたけれども,採用という目から見れば,きわめて合理的な方法だと感じる。
というのも,法律事務所の採用についてみてみれば,多くはレジュメであるていど絞り,形式的な面接と,飲み会での雰囲気という「点」で判断しているように思えるのに対し,上記のような方法は,一定期間の実務処理能力等を複数の採用する側の眼で値踏みするという「線」で判断することになり,双方にとって「ハズレ」になりにくいと考えられるからだ。
さらに,多くの弁護士志望の修習生にとっては,一部の修習生に対して大変な作業が集中することで,比較的プレッシャーも感じることなく,ノンビリすごすことができることになり*1,採用する側,採用を希望する側,採用を希望しない側の3者の利害がピタリと一致するともいえる。
ただ,現実の採用については,熱心な志望者の中からセレクションされるかというと,必ずしもそうではないのに驚かされた。熱烈に「(裁判官,検察官に)なりたい,なりたい」と挙手し,大変なプレッシャーを感じながら,法律事務所の内定ももらわずに修習生活を送ったとしても,途中で採用レースを撤退しなければならなくなった人は少なくない。その一方で,たいしてその気もなかったはずが,指導する裁判官・検察官らの熱烈な説得,勧誘を受けて,いつの間にか宗旨替えして任官・任検した人もいる。そういう意味では,思った以上にドライで,厳しい選考が行われているんだな,と感じる。
ちなみに,任官・任検希望の意思を裁判所・検察庁や司法研修所に伝える機会はいくらでもある。いちばん明示的なのは,修習開始前後に何度か行われる,
以下の( )内に,将来希望する進路の割合を,合計が100になるように記入してください。 ( )裁判官 ( )検察官 ( )弁護士 ( )その他
というような感じのアンケートである。たとえば,裁判官か検察官のどちらかになりたいが,どちらも優劣付けがたい,というような場合には,裁判官と検察官の欄に50と書き,残りの欄には0と書く。
多くの人は弁護士志望だとはいいつつも,研修が始まる前後あたりは,
( 10)裁判官 ( 10)検察官 ( 80)弁護士 ( 0)その他
などと書いたりするのがオトナの対応なのかもしれないが,私の場合は,常に迷うことなく
( 0)裁判官 ( 0)検察官 (100)弁護士 ( 0)その他
と書いていた。なので,特に面談の声がかかったり,思ってもみない困難な仕事が降ってきたりすることはなく,大過なく実務修習が過ごせたものである。
(つづく)
*1:だからこそ,かつてのエントリ― http://d.hatena.ne.jp/redips/20080318/12058487439 で書いたように,ベルサッサが可能になる