Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

弁護士の仕事は本当は楽しい

これだけ連日,就職状況が厳しい,法科大学院が敬遠される,という話を耳にすると,そりゃ,余計に法曹志望者が減るよな,と思う。


この話は,先日,修習生を前にして話をしたことを思い出しながら書いている。最近,修習生や,新人弁護士,あるいは法科大学院生と接するとき,みんななんだか元気がなく,うつむきがちである。給費制から貸与制,あるいは就職が決まらない,初任給の水準が下がっている・・など弁護士の将来について,暗い話題が多いからであろう。


あくまでこれは自分の体験の枠内でしか語れることではないけれど,サラリーマンを8年少々やった自分の経験と比較して,弁護士の仕事というのは相当面白い。人のトラブルを取り扱うことが多い身として,「面白い」というのは不適切な表現かもしれない。会社員がつまらないと言っているわけでもないし,他にも面白い職業がたくさんあるのもわかっている。


どんなところが面白いのか。ひとつは,責任も成果も,組織ではなく,個人に強く跳ね返ってくるところ。大企業に入った方が,チーム・組織でレバレッジの利いた仕事ができるかもしれない。でも,弁護士の仕事は,周りのボス・同僚に支えられつつも,結局は一人で考えて,一人でやることが多い。裁判所に提出する書面も,意見書も,自分の名前で出す。手柄を立てれば,それをさらっていくボスもいるかもしれないが,必ず対外的にも自分の名前が残る。失敗すると,事務所のせいでも会社のせいでもなく,自分が負う。


会社で仕事をしていても,もちろん「あのプロジェクトはあいつがいたからこそうまくいった」という話はある。しかし,対外的に自分の顔と名前を出して仕事をする人というのはごく一部の人に限られる。でも,弁護士は,1年生の時から対外的にも自分の名前で仕事をする。まあ,他の士業とも共通することではあるけれど。


もうひとつ,これも上の話とのつながりだけれど,デリバリーだけでなく,セールス,マネジメントも含めて,「ひとり事業」を体験しやすいこと。会社員やっていると,自ら起業するか,サラリーマン社長に上り詰めるなどしないと「全部」の業務をすることは少ない。弁護士の場合,自分ひとりで書面を書いたり交渉したりというデリバリー業務のほか,マーケティング,営業といったセールス関係の業務,さらには事務局を含めた事務所全体の経営といったマネジメント業務を全部体験できる可能性が高い。


そのほかにも,「弁護士の仕事のどんなところにやりがいを感じますか」という問いを弁護士にすればみんな違った答えが返ってくるだろう。「困った人の役に立てる」などがその代表例かもしれない。私は上に書いたようなことに面白さを感じている。最初は,あるパーティの末端に加えてもらって経験値を詰みながら,いずれは自ら独立して冒険に出て,どんどん仲間を増やしていったりし,他のパーティとは違う独自性を出していくというところは,壮大なスケールのゲーム性もあると思っている。


今は弁護士や司法試験が避けられていて,参入の障壁が下がっているからチャンスだし,この世界に多くの若い人にチャレンジしてもらいたいと思う。給費の問題,試験科目が増えた減ったという話は決して小さい話ではないが,人生の選択を左右するほどの大きな問題ではないし,これらのネガティブな話題で,若者から敬遠されていると思うと非常に残念だ。


例外なく弁護士全員が楽しんでいるとまではいえない。しかし,私が知っている限りでは成功者と呼ばれる業界の先輩たちだけでなく,周りの同期も含め,多くの人がこの職業を選んでよかったと思っていて,愚痴を言いながらも忙しく,楽しく仕事をしている。


なので,私の目の前にいた修習生たちには,弁護士ってすごいんだぞ,面白いんだぞ,と思われるように,(たとえつまらないと思っていても/たとえ儲かっていなかったとしても)見栄を張って,胸を張っていってほしい,ということを伝えておいた。