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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

企業法務弁護士とインハウス【法務系Advent Calendar 2017】

企業内で働く弁護士(インハウス)が増えてきて,事務所で働く弁護士の仕事にどのような違いが出てきただろうか。
※本記事は,【法務系Advent Calendar 2017】の企画のもとに書いたものです。



今年のAdvent Calendarはテーマがフリーなので,ジェネラルな(ポエムな?)話題が続いている。なので,自分も特定の法分野の話題だとか,Tipsなどではないことをテーマに選んでみた。


(本当は,このタイミングで独立の経緯などを書こうと決めていたのだけれど,橋詰編集長の「私のサイン」にて非常にうまくまとめてくださったので,このテーマは,つい先ほどひねり出したものです m(_ _)m)


(なお,前日は,overbodyこと柴田先生でしたが,最後にじわりとプレッシャーをかけられました。)


法科大学院ができて,司法試験の合格者が増えたが,企業内弁護士は,当時から司法試験合格者が活躍する新たなフィールドとして期待されていた。


実際,どれくらい増えたのか。


2017年6月30日付けのJILAの統計資料*1によると,その数,1,931人。全弁護士に占める割合は,5.0%である。


修習期別にみると,

40期台 70人 1.7%
50期台 400人 5.2%
60期台 1434人 7.8%


というように,制度設計時の目論見どおりかどうかはわからないし,合格者の増加分を吸収してきたかというとそうでもないが,確実に増えてきている(パーセントは,その世代の全弁護士に占める割合)。


先に示した統計を少しアレンジして,自分の修習期(61期)の前後で分けてみると,

すごく先輩(-50期) 119人
少し先輩(51期‐60期) 502人
同期(61期) 173人
後輩(62期-) 1137人


驚いたことに,インハウスの6割近くが自分より後輩で,同期も合わせれば3分の2を超えている。それまでインハウスがいなかった会社から,「新しい法務担当です」と言われて,「弁護士」の肩書がついた名刺を渡されることも珍しくないし,一緒に仕事をしたインハウスは知る限りはほぼ全員60期台だったように思われる*2


インハウスが増えてくると,外の弁護士に仕事を出さなくなって,外の弁護士が食えなくなっていく,という話も聞くが,実際のところどうだろうか。


上記のようなインハウスの構成や,自分の体感からすると,インハウスが増えることによって,企業法務界隈の弁護士の世代交代がどんどん進むのではないかと思われる。


もちろん,インハウスを採用する企業からすれば,「内製化」することで,外注費用を抑えられるという期待はあるのかもしれないが,実際のところは,インハウスを採用したことで,外の弁護士に依頼する量がぐっと減ったということはあまり聞いたことがない。


むしろ,外に出すべき仕事,中でやるべき仕事の振り分けが適切に行われるようになってきている傾向を感じる。専門分野の仕事,重要性の高い仕事,社内の意見のセカンドオピニオン的なものが求められる仕事,ボリュームが多くて中では処理しきれない仕事など。


もちろん,長年お世話になっている顧問の事務所への依頼が継続するケースも多いとは思うが,インハウスが,新しい事務所,新しい弁護士を開拓しているという話もよく聞く。


先に述べた統計のとおり,60期台のインハウス,約1500人が,自分にとって,やりやすい人,頼りになる人を探すとなれば,大ベテランに頼むというよりは,比較的世代が近くて融通が利きそうで,かつ,実力・実績もわかっている人に依頼すると思われる。


さらにいえば,その傾向は,インハウスに限らず,法科大学院卒業生全般に言えることかもしれない。


法務の専門性を持った若い人材が,発注側にたくさん供給されることで,「若手の」受注側にはこれまでなかったような世代交代のチャンスが来ていると思いたい。


さて,明日は,「私のサイン」でインタビューしてくれた,橋詰さんです。

*1:http://www.jila.jp/pdf/transition.pdf

*2:インハウスは女性が約4割を占めており,確かに,実際に女性が多く活躍しているなと感じる。