Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

ある老弁護士

この道に進むきっかけとなった事件で関わった弁護士の話。


今から約8年前,仕事(システム開発関連)でトラブルが生じ,弁護士に相談することになった。私にとって,生涯初めて出会う弁護士だった。当時勤めていた会社がトラブルの当事者だったわけではなく,クライアントが当事者だった。その弁護士は,クライアントの顧問弁護士だった。私は,クライアントに同行し,事情を説明する役割だった。


その事務所は,弁護士ひとり,事務員ひとりの事務所だった。会ってみると,ずいぶんお歳を召された方だ。あとでご本人に聞いたところでは,私より50歳も(!)年上で,当時ですら80を超えていた。


打ち合わせは「で,システムってのは何だね?」から始まった。「サーバっていうのは何だ?」「パソコンの親玉みたいなやつです」など,なかなか根気の要る打ち合わせだったが,80を超えた方にしては,非常に理解・吸収が早い,と感じた。


その先生は,自分でワープロ(PCではなく,ワープロ専用機)で書面を作成していた。校正は私の役割だったが,「蓋し」「恰も」「萌芽」「豈」など,見たこともない漢字がたくさん登場した。


裁判所にも同行するようになり,だんだん先生とも打ち解けてきて,「どうしてIDとパスワードと2つも入れなきゃいけないんだね?」「じゃあ,どうしてCDでは暗証番号だけを入れればよいのか?」など,好奇心旺盛な先生だった。


事件が係属する途中で私はロースクールに入り,期日のたびにロースクールの様子などを先生に話した。そこで初めて先生が「1期」(!)であることを知った。私の60年も先輩ということになる。「おやじが裁判官だったから,勉強といえば,家にあった本を読んだだけだ。憲法の本はあまり役に立たなかった」とおっしゃっていた。そりゃ,新憲法が施行された翌年の試験では憲法の教科書はほとんどなかっただろう。


その事件が終了してからは近所で偶然お会いしたとき以外はお会いしていない(自宅がたまたま近所)。今は,その事務所を畳まれているようで,ご自宅が登録上の住所となっている。


・・・この話は,今日突然思い出したから書いたのであって,何かほかにきっかけがあったわけでもありません。というわけで,特にオチはありません。