Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

無効審判口頭審理

先日,無効審判の口頭審理を経験した。


特許無効審判(特許法123条)とは,特許の登録後に,本来は特許されるべきでない特許について消滅させるために特許庁に対して無効とするよう請求する手続である。わざわざ他人の権利を無効にするよう,行政庁に請求するのであるから,主に特許権侵害の警告を受けた相手方もしくは,特許権侵害訴訟の被告が,防御のために相手方の特許を無効化するために用いられる。


請求人は原則として誰でもなれる。そして,被請求人は特許原簿に登録されている特許権者で,行政庁に対する審判請求でありながら,民事訴訟のような二当事者間の争いという形式を取る。もっとも,民事訴訟のような当事者主義とは異なり,職権での証拠調べもできるなど,職権主義も採用されている。


ひととおり書面が提出された後,口頭審理が行われる。民事訴訟の口頭弁論,弁論準備手続は,ほぼ書面でのやり取りが定着し,裁判官の前で口角泡飛ばしながら議論することはほとんどない。弁論主義の原則である口頭主義は,かなり形式化している。これに対し,無効審判の口頭審理では,その場で審判官がいろいろ質問し,その場で答えなければならない。相手方の主張に対して反論,再反論も必要になる。そういう意味では,民事訴訟にはない醍醐味(?)があり,口頭主義が前面に出る。


ちょっと違うかもしれないが,代理人自身が審判官から尋問を受けるようなもので,その答え方次第で,結論を左右するかもと思うと,かなり緊張する手続である。民事訴訟における証人尋問はかなり緊張する手続ではあるが,自分自身が尋問されるわけではないので,緊張感はそれ以上かもしれない。それに,どうしても内容が技術的な細部に踏み込むと,果たして答えられるかどうかという不安もある。


審理の進め方は,審判官の個性が出るようで,一概に言えないが,今回の事件の審判官は,かなりハッキリとモノを言う方だった。「合議体の中で審理したわけではないが私は・・と思います」「はっきりいってそれは弱い主張ですね」「正直,その意味するところがわかりません」「それをいうなら,こっちのほうがいいでしょ?」など。とはいえ,最終的な結論がどうなるかは,まだよくわからない。とにかく緊張の2時間だった。


審理の途中,比較的大きな余震が起きた。しかし,みんな慣れてしまっているので,平然と続けられてしまったのにも違和感。


似た手続に,関税法に基づく税関による知的財産侵害物品の輸入差止手続がある。差止の申立てを行うと,場合により専門委員の意見照会が行われるが,ここでも,申立人らからの意見陳述とともに,利害関係人らと議論を交わす場合がある。


民事訴訟においても,もう少しこうした文字どおりの口頭弁論の機会が増えてもよいのにな,と思う。