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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

著作権法によるアクセス・コントロールの保護

昨日,CRIC(社団法人著作権情報センター)の研究会で,題記の講演を聴いてきた(講師:山本隆司弁護士)。


途中,かなり難しい議論もあったので,いつものCRIC研究会に比べるとニッチでレベルも高いと感じた。私も,どれだけ正確に理解できたか自信がない。


そもそも,今の著作権法の枠組みの中では「アクセス権」という考え方はない。例えば,本屋で小説の立ち読みをすることは小説という著作物の鑑賞を行うことになるが,これを権利者の許諾なくして行っても,著作権侵害にはならない。ネット上の動画コンテンツをストリーミングによって視聴することも同様に著作権侵害にならない(一部,違法ダウンロードに関する規制はある)。


ところが,自宅にある小説を裁断して電子化したとする。この段階では複製を伴うから,著作物の利用行為に該当するが,個人的な使用目的であれば,原則として適法だ(著作権法30条1項)。これをさらに,他人にメールで添付して送ったり,ネット上に掲載して公衆から閲覧できるようにすると,著作権(複製権,公衆送信権)の侵害となる。


ただ,こうした著作物の複製を伴わない不正な行為,例えば,会員にしか閲覧できないサーバ上の動画コンテンツを不正にアクセスして閲覧する行為や,暗号化された文書データを不正に復号して閲読する行為については,現行の著作権法上は違法でない。それでは,現在のネット社会において,十分な著作物の保護を図れないのではないか,という問題意識が存在する。この研究会は,こうした問題をテーマとして取り扱っている。


著作権法では,いわゆるコピー・コントロールに関する規定は存在する。簡単にいえば,技術的に無断複製を禁ずる手段を設けてあるにもかかわらず,それを回避してコピーする行為は,たとえ個人的な使用目的であったとしても,著作権侵害となる(著作権法30条1項2号)。


これに対し,不正競争防止法では,コピー・コントロールに加えて,アクセス・コントロールについても規制がある。ただ,不競法では,これらの技術的制限手段の無効化行為を違法としているのであって,それによって著作物にアクセスする行為を違法としているわけではない。また,保護の対象となっているコンテンツは,著作物に限らない。


山本先生は,デジタル・ネットワーク化の環境下で十分な著作物保護をするためには,「アクセス権」という新しい著作権法上の支分権を創設すべきという問題意識をもつ。ただ,本来は自由に鑑賞できるべきコンテンツにまでも規制が及ぶようなことがあってはならないし(例えば家庭内での鑑賞など),なかなか難しい問題だ。


文化審議会でも,著作権法上にアクセス・コントロールの保護が議論されていた。ただ,現段階では,アクセス・コントロールの保護が必要とまでは判断しておらず,コピー・コントロールの保護,その他の規制で足りると考えられている。


個人的には,デジタル・ネットワーク化により,コンテンツの流通が加速し,当初の著作権法が想定していた規制では追いつかないようになっていると感じる。著作権法の目的である「文化の発展の寄与」のためには,最終段階である「鑑賞」にも何らかの規制を及ぼしていく必要があるとは思う。ただ,他方で,検索エンジンや,ネットオークションでのサムネイル画像の問題など,余分な規制(不十分な権利制限規定)があった。自由利用の促進のための法改正もまだまだ不十分。


制限の強化(アクセス権の創設など)と,自由利用の促進(フェアユースの導入など)のトレードオフは難しい。