Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

一般論を書くことについて

まだなんだかんだ言って母校LS出身者のゼミを続けている。


今年も,2回目受験,3回目受験予定者数名を対象にしている。毎回,過去問を書いてもらって添削し,ゼミで議論するという流れにしているが,答案を見ていると,いつも似たような違和感を覚える。


それは,結論を導くのに必ずしも必要と思えない一般論,定義,趣旨などを書いている答案が多いこと。余事記載だとしても,そこに明確な誤りがない限りは減点にはならないかもしれない。しかし,2時間という短い時間で答案を書かなければならないのだから,本来書くべき事実摘示,評価といった問題に即した具体的な記述をする時間が減ってしまう。事実,そういった記述の分量は少ないことを考えると,無駄な一般論は有害であるはず。


ゼミ生に聞いてみると,「基本的な理解があることを示す必要があると思って」「書かないと何か怖い」「丁寧に論証しようとすると,そこが出発点になる」などの回答がある。うーむ。


具体例を挙げてみる。今回のゼミの題材は,平成25年(最新)の民訴の問題だった。その中の設問1(設問4まである。)は,遺言無効確認訴訟を提起された被告(受遺者)を代理することとなった司法修習生P1が,指導担当弁護士から,「確認の利益は認められない」という立場で立論することが求められている。その際に,遺言無効確認の訴えについて確認の利益が認められた最判昭47.2.15が問題文に判決の要旨と共に示されており,「昭和47年判決の事案とは異なるところがあるように思います。昭和47年判決を前提としながら,事案の違いを踏まえ」論述せよ,というアシストがある。


この問題で,ほとんどのゼミ生は,「訴えの利益とは・・をいう」「確認の訴えの場合には,訴訟選択の適否,対象選択の適否,即時確定の利益が問題となる」などの一般論を書いている。私にはこの記載が必要だと思えない。


じゃあ,どうすれば,という話になるので,私なら次のように書くだろうか。

1 Eが提起した遺言無効確認の訴え(本件訴え)は,以下に述べる理由により確認の利益を欠くから不適法であり,却下されるべきである。
2 遺言は過去の法律行為である。その有効性の確認を求める訴えは,当事者間における具体的紛争の解決という観点からすると現在の法律関係の確認を求めたほうが直截的であるから,原則として確認の利益を欠く。
3 Eは,本件訴えの確認の利益があるとする根拠として昭和47年判決を挙げるが,これは遺言無効確認訴訟一般について確認の利益ありとしたものではない。
すなわち,三十筆余の土地及び数棟の建物という多数の相続財産がある場合において,「あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現」しなくとも審理対象の明確性を欠くことはなく,「基本的法律行為たる遺言の無効の当否」を判断したほうが「紛争解決機能が果たされる」として例外的に確認の利益ありとしたものである。
4 これに対し,本件で遺贈の対象となった財産は甲1土地のみである。したがって,基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判断したほうが,現在の法律関係(具体的には甲1土地の所有権の帰属)を確認するよりも紛争解決機能が果たされるというような例外的場合に当たらない。
5 よって,原則どおり,過去の法律関係の確認を求める本件訴えは,確認の利益を欠くというべきである。

問題文で昭和47年判決との異同を論ぜよという指定があるので,敢えて「確認の利益とは・・」みたいな話は要らないのではないかな。


模範答案,解説集などを見たわけではないので,間違っていたり不適切である可能性もあるかもしれませんが,あしからず。