Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

この状況下でも進まない「裁判ウェブ会議」

昨日の日経記事,いろいろと突っ込みどころが多い。

 

www.nikkei.com

見出しの,「緊急宣言下でも実施」「ITの利点示す」とあって,一見すると,コロナの状況が後押しとなって,裁判のIT化が加速したように思える。

しかし,中身を見てみると,

民事訴訟の手続きをオンラインで進める「ウェブ会議」を導入している14裁判所が、4~5月に計167件のウェブ会議を実施した

で,その数字に目を疑った。2ヶ月間で,14の地裁(しかも,名前が出ているのは東京,横浜,京都など大規模庁である。)で167件て。東京地裁の民事部で1日に開かれる弁論準備手続・弁論の件数だけでそれを軽く超えるはず。

しかも,

もっとも総数で見れば、4~5月は3月の346件に比べて大きく減った。

であって,加速したのではなく,「減速」していたのだ。さらにひどいのはその理由で,

同期間の実施を見送った東京地裁の担当者は「弁護士事務所から参加する場合でも電車移動が生じる可能性がある。新型コロナの感染リスクを最大限減らすために行わなかった」と話した。 

・・ ウェブ会議なんですけど。。しかも,減速した理由は弁護士サイドにあるんですか。。

新型コロナウイルスの影響で裁判所の対面業務はほぼ停止していたが、ネット経由では一定程度手続きが進んだ。

などと,裁判所の対応を持ち上げるかのような書きぶりだが,これは記者の皮肉なんでしょう。間違いない。

 

最近,昨年から今年の初めにかけて自分の訴訟案件がバタバタと終わって,手持ちの件数が減ったせいか,まだ弁論準備期日のウェブ会議は経験したことがなかった。とはいえ,全国で月に100件レベルであれば,確かになかなか当たらないような気がする。それにしても,どういう基準でウェブでやるかどうかを決めているのだろう?

 

緊急事態宣言が出ると,裁判所は一斉に貝の口を閉ざすように,ほぼすべての期日を取り消した。このやり方には大きな疑問があって,

 

 と,4月の時点で懸念していたことがほぼ現実となって(FAXではなく,主に裁判所を介して電話で何往復もやり取りした。),いざ再開しようとしても,日程調整が進まない。緊急事態宣言が取り消されて1か月以上経つのに,いまだに何の連絡も来ない事件がある。ひょっとして何かのミスでこちらが見落としたのかなと思って,こちらから電話してみると「順番に連絡しています!」と出前を催促されて不機嫌になったお店のような回答であった。

敢えてリンクしないが,この間の裁判所関係者と思われるツイートでも,「平時でも,訴訟手続が「中断」することは普通にあるんだけど。」とか「両当事者が期日を入れたいと思う事件がどれほどあるのか」といったものが見られたことが象徴的で,司法機関として何とかコロナへの影響を最小限に食い止めようとする気概がまったく感じられない。

この状況で,官民含め,すべての組織は影響を受けた。しかし,自分の知る限り,行政も,民間企業も感染リスクを抑える工夫をしつつも,可能な限り活動を維持しようと努めてきた。裁判所ほどの機能停止をした組織は他に知らない。

冒頭の記事から話がそれてしまったが,「2ヶ月で167件,ウェブ期日をやりました」っていうレベルだ。私個人では4,5月では167件に達するか微妙なところだが,弁護士数人の事務所ですら,2ヶ月でこれをはるかに超えるウェブ会議を行っている。

 

先日,約3か月半ぶりに開かれたある弁論準備期日に出頭した。感染リスクを避けるため,狭くて換気が悪い書記官室の小部屋ではなく,法廷を使って行われた。法廷のアベイラビリティの関係でなかなか期日を入れられなかったという説明があった。しかし,そこで行われたことは,提出書類の確認,簡単な2,3の質問のやりとりと,次回期日の調整で,正味5分程度。こういうのこそ電話やウェブで済ませられるし,もっといえば,緊急事態宣言下でもできたはず。

 

自分の弁護士業務のうち,相当の部分は裁判に関係しているし,契約交渉や法律相談も,究極的には「裁判所がどう判断するか」ということを意識せざるを得ないので,裁判所とは切っても切れない関係にある。しかし,このような状況が続いて,弁護士や市民から見放されてしまうかもしれないと思うと,暗澹たる気持ちになる。