判例を検索していたところ,ちょっとおもしろい事件を発見した(東京高裁平成12年3月29日判決判タ1094-193)。
アマチュア六段の棋士Xが,田中寅彦(現九段)に対し,「私が居飛車穴熊の元祖であるにもかかわらず,田中氏がテレビや雑誌で『私が居飛車穴熊の元祖である』などと虚偽の事実を公言したことにより,名誉を棄損された」として,慰謝料300万円の支払いを求めた事件である。
私が読んだ控訴審判決では,どちらが元祖といえるかについて,真剣に判断している。
居飛車穴熊の対戦が,いつごろ,誰によって行われたか,また,その戦術に関する公刊物がいつ頃誰の手によって出されたのか,といった事実を,証拠に基づいて丁寧に認定している。
そこで,控訴審では,Xと田中先生の手順が異なることに着目し,Xは,タイプAの居飛車穴熊だが,田中先生は,タイプBの居飛車穴熊であり,それぞれ異なるもので,Xも田中先生もどちらも元祖である,と認定している。
よって,田中氏が「私が元祖である」と公言しても,Xの名誉を傷つけることはない,として,一審の判断(請求棄却)を支持していた(Xは,上告したようだが,上告受理申立不受理に終わっている)。
将棋の戦法も争いになるものである。