Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

Winny 天才プログラマー金子勇との7年半

連休中のお供にと思って購入せよとのプレッシャーを受けて楽しみにして買った本(Kindle版)。初日に一気に読み終えるくらい,面白かった。

Winny 天才プログラマー金子勇との7年半 (NextPublishing)

Winny 天才プログラマー金子勇との7年半 (NextPublishing)

  • 作者:壇 俊光
  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: Kindle版
 

Winny事件といっても,もう若い法クラには刑法における幇助犯の判例として認知されているだけかもしれない。この事件は,2006年に一審判決,2009年に控訴審判決で,自分にとってはロースクールから 修習,新人弁護士のころに気になっていた事件だった。

著者の壇先生は,Winny事件・被告人・故金子氏の弁護人で,業界ではWinny事件の弁護人としてはもちろんのこと,後輩をかわいがる()ことで大変有名な先生である。

壇先生のブログといえば,トップページ,「クローラー禁止」の趣旨の表記があって(今は見当たらなかった),昔は何だこれ,と思っていたけれど,これは,著作権法47条の5第1項,同法施行令7条の4第1項1号ロ,同法施行規則4条の4第2号(条文はいずれも現行法令のもの)に基づく記載で,平成21年改正によって追加された検索エンジンに関する著作権制限規定の説明をするときに,いつもネタにさせてもらっていた。

3年ほど前,突然私の事務所に電話があり,大阪でシステム開発紛争の話をしてもらいたい,と言われて,電問研にお邪魔したところからのご縁である。

閑話休題。

本書の文体は,壇先生のブログのそれと同じで,法律家のものとは思えないほど一文が短くて軽快である。

 壇先生は,本事件を「名刺代わりの事件」と言う。ほかにも様々な事件で有名な先生だが,本書を読めば,この事件には特別な思い入れがあることがよく伝わる。自分がこれから先も含めて,これほどにまで「自分の事件」といえるものに出会うことができるかどうかはわからないだけに,うらやましくもあり,ただただすごいと思う。

私は刑事弁護を語れるような実績もスキルもないのだけれど,3年前にiPhone脱獄(商標法違反)+チート幇助の刑事事件を担当したときの経験から,Winny事件の弁護団の先生たちの苦労のほんの一部はわかる気がする。自分のときも,当時取り得るあらゆるリソースを使って,「脱獄」という物騒なネーミングがついているが,実際にやっている内容が誤解されていることや,なんとなくケシカランとされる「チート」の具体的内容が全然特定されていないことなどを全力で論証しようとしたが,裁判所の壁は当時の私の予想をはるかに超えるほど厚かった。

民事事件の場合,事件の依頼者と親しくなって飲みに行ったりすることは珍しくはないが,本書では,金子勇氏という稀有なキャラクターとの交流についても詳しく書かれており,そこも迫真性があって「自分がこういう事件を担当することになったら・・」と没入させられた。

この仕事をやっていて思うのは,担当するクライアント,事件,事案との巡りあわせは運の要素が強いということだ。しかし,ただ日頃の情報発信,自己研鑽によってその巡りあわせは影響してくるし,実際に自分の志向する事件等に出会ったときの立ち上がりは違う。そんなことを本書は気づかせてくれる。