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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

公開質問状に対する将棋連盟の回答

3月22日のエントリで紹介したユーチューバーによる公開質問状に対し,4月17日に将棋連盟から回答があった。

将棋の対局のイラスト

これまでの経緯

3月22日の当ブログのエントリ。 

masahiroito.hatenablog.com

 

そしてその回答。

www.shogi.or.jp

 

具体的に回答があったのは,

  1. 棋譜に関する「共通の財産」とは,いかなる法的根拠に基づくものか。
  2. 棋譜利用に関するガイドライン作成等の運用についての意向

である。

棋譜利用に関する法的根拠

法的には1が気になるところだが,ここについて

棋譜の著作権の有無に関しまして、様々な議論があることは承知しておりますが、日本将棋連盟と各棋戦共催社及び主催社(以下「主催社」)間では棋戦運営するにあたり、主に棋譜の優先掲載に関する契約を結んでおります。
弊社団は日本の文化たる将棋の発展を目的としている団体であり、棋戦運営は事業の根幹を成すものです。棋戦を運営する前提として、弊社団及び主催社等には、棋譜の利用も含む営業上の利益を有しており、これは法的に保護される利益であると認識しております。

 と述べている。著作権が帰属するということはさすがに明言を避けたものの,スポンサーとの契約に基づいて掲載・配信するという事業を営んでいる以上,棋譜の利用についての法的に保護されるべき利益を有するとした。この表現は,不法行為責任を定めた民法709条の,

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

を意識したものだろう。

私も以前,有償で配信する棋譜を無断で公開,配布したりするようなことがあれば,不法行為を構成する可能性があると述べたことがあるが,連盟の考え方も概ね同じようだ。

棋譜利用に関する連盟の方針は

そのような法的には不安定・弱い根拠に基づく「棋譜の利用権」をどこまでファンに許諾していくのかということは悩ましいところではあるが,その「悩み」は,2の回答にそのまま表れていた。

棋戦の棋譜利用に関しましては、2019 年 9 月 13 日に弊社団Web サイトにてリリースしました「棋譜利用に関するお願い」以前より、弊社団及び主催社間にて協議を進めております。当協議において、棋譜利用に関するガイドライン作成の話も出ておりますが、棋戦ごとに契約内容が異なることから、各々調整が必要であり、まだ多くの時間を要しますことをご理解頂ければと存じます。

約1か月で回答を公開したことは評価できるものの,正直,この回答は残念だった。スポンサーとの契約内容が違うために統一的なガイドラインが出しづらいのは理解できるものの,何年も前からネットの時代において棋譜利用の問題が取り上げられていたにもかかわらず,何らの具体的な動きが見えてこない。この回答からは,ガイドライン等を公表する目途や続報を出す意思すらも見えてこない。このまま有耶無耶にしてしまうことすらできる内容である。

棋士会のチャンネル開設

将棋連盟からの回答の中で,やや理解しづらい個所があった。

棋譜利用に関しましては、弊社団にとって非常に大事なトピックであり、貴チャンネルの1コンテンツになることは将棋界発展の観点から適切ではありませんので、本質問状を回答するにあたり、このような公開という形を取らせて頂きました。

これは棋譜利用に関する回答は,皆の関心事だからダイレクトにするのではなく,公開したという趣旨なのだろうけれども,最初に読んだときは,質問者に対する攻撃的な意思があるように思えた。

連盟も危機感を覚えたのか,偶然なのか,この回答の翌日には,棋士会のYouTubeチャンネルを開設し,その翌日から配信が始まった。  

www.youtube.com

公式チャンネルとユーチューバーがカニバるのではなく,共存共栄すべきもの。コンテンツの幅が広がるのはファンにとってありがたいが,やっぱり将棋のコンテンツの基本はプロの局面,棋譜あってこそなので,将棋連盟はスポンサーとうまく調整して適切な利用環境を整えていただきたいと思う。