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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

新司法試験問題漏洩?

法科大学院→新司法試験,という新しい法曹選抜制度については,実務家を中心にいろいろと問題点の指摘などがなされてきたが,制度の公正さをも疑わせる事件が起こった。


http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007062302026567.html


問題漏洩といっても,刷り上った問題用紙が一部の受験生の手に渡った,というほどの事例ではないが,記事によると,

出題と採点を担当する「考査委員」を務める慶応大法科大学院の植村栄治教授(行政法)が同大学院の学生に、試験対策で開いた答案練習会やメールで、実際の試験問題と類似した論点を指導していた(以下略)

慶応大などによると、植村教授は今年二月から三月にかけて、正規の授業の時間外に、計七回の練習会を開催。毎回百五十−百七十人の学生を対象に、「行政処分の執行停止」などの論点について講義した。


 その後、外国人強制退去処分をめぐる判例など六つの判例を紹介したメールを参加者に送信。先月中旬に行われた新司法試験の論文試験の行政法分野では、外国人の退去強制処分の執行停止について論じるよう求めた問題が出題された。


などとある。今年の受験生であり,かつ,上記の植村教授の指導による恩恵を受けていない私としては,自分の合否にも影響しかねない話であるから,憤りを感じずにはいられない。


もちろん,ベースとなった判例を知らなかったとしても,問題文にはそれなりに回答への誘導がなされており,基礎的な知識と理解力があれば,「落ちない答案」を書くことはできるはずである。しかし,試験直前期の2月,3月に,上記のような「教授の私的な勉強会」に参加していれば,本番の心のゆとりは,非参加者と比較して天と地ほどの差になることは明らかである。心のゆとりに限らず,採点結果を見ても,有意差が生じることは間違いないだろう(検証の方法はないだろうけれど)。


このような行為によって,一番とばっちりを喰らうのは,ギリギリ不合格となってしまった一部の受験生ということになるのかもしれないが,真面目に勉強し,合格できる十分な実力を備えていた慶大の受験生も「漏洩によって助けられたのね」と思われかねず,いい迷惑だと思う。さらには,法科大学院関係者,教員たちも,「結局,ロースクール制度によって法曹選抜機能の大部分を大学に移したのは失敗だったね」などと思われるかもしれない。


にもかかわらず,渦中の慶大では,現時点で,

慶応大広報室は「植村教授は『(練習会は)昨年も開いており、今年も学生から要望があったので開いたが、軽率だった』と反省している。教授の私的な勉強会で、大学は関与していないが、社会を騒がせ申し訳ない」とコメントしている。


・・と,あくまで個人の責任であるとし,他人事のようなコメントである。