Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

法曹養成制度をめぐる現下の状況

ツイッターで紹介されていた法務省の「法曹養成制度に関する検討ワーキンググループ」の2010年4月12日配布資料から,東大の井上先生のレジュメ。



http://www.moj.go.jp/content/000047578.pdf

まず,従来の法曹養成制度(法科大学院発足前)に関する問題点を指摘する。

従来の制度では,法律学の専門教育を受けたことを必ずしも前提にせず,司法試験に受かれば法曹資格を得ることができることになっており,合格者数が極めて限定されていたこと(中略),受験回数に制限がなかったことなども手伝って,(中略),異常な受験競争状態を呈するようになってしまった。

受験生は,ともかく合格することのみを目的に,受験予備校に依存し,受験技術を身につけることに邁進することになり,各分野の基本書すら読むことなく,パターン化された答えを丸暗記するような勉強ばかりを積み重ねる結果,各法律分野の実質的な理解に裏打ちされない,論点羅列的で金太郎飴的な答案が著しく増え,法曹となってからも,マニュアル依存の傾向が見られるなど,法曹となる者の質の低下が憂慮される状況となった。

この手の話はよく聞くが,ここはでハッキリ言っているのは珍しい。まるで旧試験下で誕生した法曹がみんなダメダメのようにも読めてしまうが。


そして,法科大学院教育の質の批判に対しては,

新司法試験の合格者数が目標を下回ったのは,法科大学院の教育が十分な効果をあげていず,あるいはその修了者の質が劣っているからだという指摘ないし主張があるが,十分な根拠のあるものかは疑問である。

としたうえで,次のように批判している(引用ではなく筆者による要約)。

  • 二回試験の不合格率が高まったことが,質低下の根拠とされるが,以前は2年だった修習期間が1年に短縮され,しかも十分な座学が確保されていた前期修習が,法科大学院でカバーされると誤解され,省略されたまま従来通りの試験がなされたことが不合格率上昇の理由だと考えられる。むしろ絶対数として二回試験に合格した者は増えているから法科大学院教育の効果はありといえる。
  • 試験委員の採点辛口コメントも,質低下の根拠とされるが,それぞれの科目の専門家から見れば,不十分に感じられるのは当然であり,法曹資格を認めることが適切であるかという視点でコメントがなされたかどうかは明らかではない。


ん。この意見も多方面から批判を浴びそうではある。実務法曹界法科大学院の現場の意識の乖離がますます進んでいくことを危惧してやまない。