Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

司法試験に合格してしまうリスク

今や法科大学院への進学は「不合格リスク」だけでなく「合格してしまうリスク」もかなり大きいと思う。


昨年,今年と,弁護士会の新人弁護士研修を担当して思ったが,弁護士業界の「格差」は,修習を終えて登録したときからかなり大きい。いや,登録する余裕すらない人もいることを考えると格差はさらに大きい。同じ試験に合格して,同じ修習を受けて,実務経験もない,という同条件であっても,スタートラインでかなりの違いが生じている。違いというのは,わかりやすいところでは給与などの待遇だが,おおむね給与がいいところは,経験値も積みやすく,その後の成長も期待できるので,格差はさらに広がりやすい。


それは実力差だとか,自己責任だとかいろいろな説明はあり得るが,私が見ている限り,出身大学とか,年齢(もちろん若いほうが価値が高い)といった形式的なスペックで必要以上の差がついているという印象だ。もちろん,最初の待遇は悪くてもその後の努力によって克服・逆転はできるかもしれないが,ハンデ戦を戦うのはつらい。


最近では,裁判所職員,企業の法務部あるいは法律事務所の事務職員に,法科大学院卒業生が増えている。必ずしも司法試験には合格していない人たちだ。当事務所にも,法科大学院卒業生の事務員が何名もいる。彼ら/彼女らは,法科大学院に進学した当時とは思惑の異なるキャリアを選んでしまったのかもしれないけれど,比較的安定した職場で,そこそこ良い待遇で仕事をしている。


はっきり言えば,スタートダッシュができなかった弁護士よりは,充実感,待遇などの面で恵まれた社会人生活を送っている人も多い。


高年齢,2回目・3回目受験,マイナー法科大学院・・などの逆境を克服して合格したとしても,「合格しない方がよかった」という笑えない事態が生じてしまうこともある。


もちろん,給与,労働時間など関係ない,弁護士になりたかったのだからそれでよい,という人はいる。しかし,私が見ている限り,法科大学院に入ってくる学生の中に,そこまで「絶対に法曹になりたい」というイメージを持ってくる人は少ない。


結局このような「合格リスク」は,マーケットが求める人材の量を越えて合格者を出しているからであって,「合格しても弁護士登録せず,別の分野で活躍すればよい」という論理にはどうも与することができない。その分野において法曹資格が活かせることが論証できない限りは,別に合格させる必要もないからだ。