Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

合格率について

法科大学院が発足して当面の大学の序列や評価は,「新司法試験合格率」で測られることになりそうである。


もちろん,法科大学院の評価はそれに限らず,「どれだけ素晴らしい法曹を世に送り出したか」という点で測られるべきであるが,こういった定性的な指標は,現時点でロースクール卒の実務家は存在しないから測りようがないし,将来的にも測定されることはないだろう。そう考えると,法科大学院の戦いは,予備校や新聞,ネット掲示板などが発表する合格率ドリブンで進むことになりそうである。


先日の,新司法試験短答式発表でも,さっそく,翌日の日経新聞では法科大学院合格率ランキングが掲載されていた。


「合格率」の算定は一般に,

     合格者数
 合格率=────
     受験者数


で算出される。ただし,法科大学院・司法試験には,もう少し複雑な事情が絡むので,新聞発表などによる合格率のみの比較では,判断・評価を誤らせる危険がある。


分子の「合格者数」は動かしようのない数字だが,分母の「受験者数」は何をもって「受験者」とするかが問題となる。新聞発表などの数値は,「出願者」ではなく,「現に試験会場に来て,最初の科目を受験した人の数」をいう。もし,合格率の分母を「出願者数」とした場合,「出願したが受験しなかった人」の数次第で,合格率は新聞発表のものと大きく異なる。


先日の短答式発表に関して,具体的な学校名を挙げると,新聞発表で全国一位とされた福岡大。14人受験して,13人足切りを免れたから,パス率(この段階では合格率とはいえない)は92.9%となる(小数第2位四捨五入)。ただ,この大学の場合,ちょっと驚いたのだが,出願者は受験者の3倍,42人いる。だから,分母を出願者とした場合,パス率は31.0%(同,以下略)となる。実際に受験しなかった3分の2の学生は,いかなる理由によるものかは知る由もない。なお,本学は,前者が88.5%,後者が84.2%であった。


92.9%という数値に偽りはないが,「これだけ高い率があれば,法科大学院の中での成績が真ん中ぐらいでも優に短答式はパスできるだろう」という誤導を生じさせるおそれはある。


いわゆる「受験辞退者」には,この分析に現れるような,「出願したが受験しなかった人」だけでなく,そもそも「卒業の見込みはあったが,敢えて留年するなどして,願書を出さなかった人」も多数存在すると予想される。こういった数値は統計上現れていない。


さらには,何らかの事情により,留年した人,進路を変更して退学したり一般企業に就職した人も多数存在すると考えられる。現に,法科大学院の定員や,入学者数に比べて,新司法試験の受験者がかなり少なくなっている学校も多い。だから,「ロースクールに入学した人」を分母に持ってくると,さらに大学間の序列も大きく異なるはずだ。


こうした「統計上現れにくいドロップアウト」の原因は,第一次的には学生本人にあるはずだが,大学側にもあると思う。いくら意気込んで入学しても,誘惑の多い世代にとっての2年,3年は長い。だから,大学としても,法科大学院制度を利用して大学の存続・躍進を目指すのであれば,法律家になることのモチベーションを保たせたり,勉強のやる気を持続させる施策を十分に考えなければならない。


翻って,これから法科大学院に入って司法試験を受験しようという方々にとっては,新聞発表どおりの「合格率」のみを頼りに志望校を選んだり,生活設計することは危険だということは,上記の分析のとおりである。法科大学院の定員,実際の入学者数,司法試験の受験者数や合格率を考慮することは当然のことながら,合格率についても,2006年以降の推移を見ながら,1回目の受験生,2回目の受験生・・などの比率を見ていくことが重要だと思う。


究極的には,「ロースクールに入学して,3回以内に新司法試験をパスした人の割合」で序列をつけるのが,これからロースクールに入ろうとする人に対してはもっとも公平な指標だと思われるが,なかなか実際には測定が難しいだろう。