Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

事実認定

「法律の論文問題には,正解はない。考え方の筋道さえしっかりしていればよい」ということがしばしばいわれるが,明らかに正解だと思われることを外すと痛い目に遭う。


もちろん,確立した最高裁判所判例があるにもかかわらず,特に理由もなく独自の見解を採ったりすることはまずい。でも,これについては,しっかりと勉強すればクリアできるはずの問題だ。一方で,事実認定については悩ましいことがある。特に,新司法試験の論文問題や,刑事・民事裁判などの実務科目でそう感じることが多い。


例えば,刑事法の分野では,「これだけのことをされて反抗を抑圧されていないといえるか?」「これで一連の行為じゃなくなったといえるのか?」「実務家からするとぜーんぜん理解できないね」などと,ベテラン実務家教員は演壇に手をつきながら一刀両断される。他の分野でも,「これだけの事実で,『著しい背信性あり』と断定するのは問題ありですね」「これだけの事情で真の権利者に帰責性ありと認めていたのではたまらない」などといった話を聞く場面によく出会う。


判定が微妙なものであれば,どちらに転んでも許されるだろうが,出題者全員が争点にもならないと思っていた箇所で,違った認定をすると,かなり印象が悪くなるだろう。試験の場合,判例を調査したりする,ということはできないから,「誤った思い込み」をしないためには,日ごろから判例を多く読んで勘を身につけ,あとは,自分の持っている(はずの)一般常識で勝負するしかないんだろうなあと思う。