Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

【2015年】IT法・情報法関連書籍17選

法律書のブックレビューといえば,Business Law Journalの恒例企画が有名だけれど,ここは2015年に刊行された書籍の中から私なりに選んだ「IT法・情報法関連」を紹介したい。(12/28 14:30,2冊追記)

情報法基礎

今年3月に出た小向太郎『情報法入門【第3版】』は,簡単なレビューを当ブログでも載せたところだが,

情報法入門【第3版】:デジタル・ネットワークの法律

情報法入門【第3版】:デジタル・ネットワークの法律


つい先日,研究者3名(曽我部真裕,林秀弥,栗田昌裕)による決定版ともいえる基本書が刊行された。


情報法概説

情報法概説

まだこちらは読み始めたばかりだが,情報法の基本理念の紹介・解説から始まっており,確固たる法体系が整備されていないこの分野において*1,自分の頭の整理には好適。年末年始にはひととおり読み終えたい。


また,下記は入手すらしていないのだけれど,「インターネットと法 第4版」や,「インターネットの憲法学 新版」など,この分野で多くの文献を書かれている松井先生に,鈴木秀美,山口いつ子両先生が加わった下記の文献にも注目。

インターネット法

インターネット法

個人情報・マイナンバー関連

今年は,個人情報保護法の改正と,マイナンバー制度の本格導入直前ということで,この分野がかなり賑やかだった。正直なところ,後者については十分にキャッチアップできていない・・


(12/28 14:30追記)
まず,この本が出たのがまだ今年だったのか,と驚くくらい昔に出た印象もあるのだが,


法案が出る前に刊行されているので,改正法の内容には踏み込んでいないが,法改正に至る問題点の整理に役立つ。
(追記終わり)


改正個人情報保護法周りでは,まずは,次の2冊を手元に置いておきたい。

平成27年改正個人情報保護法のしくみ

平成27年改正個人情報保護法のしくみ

一問一答 平成27年改正個人情報保護法 (一問一答シリーズ)

一問一答 平成27年改正個人情報保護法 (一問一答シリーズ)


いずれも立法担当者の日置さんが執筆に加わっているだけに,内容は信頼できる。前者は,当ブログでも紹介したが,短いものだし,通読するのに向いている。他方で,後者は,Q&Aものなので,知りたいところを探して確認するのに有用だ*2。また,前者は公式な解説本という体裁を取っていないのに対し,後者は,公式な解説本である。


個人情報保護法に関するQ&A本では,下記も専門家たちの中では評価が高い。


なお,個人情報保護法は,定義や義務内容などの重要な部分について,個人情報保護委員会規則に委任する体裁をとっている。規則は,来年早々にもリリースされると思われ,そうなると,それに合わせて上記の書籍も改訂されるのではないかと思われる。さらには,改正法の内容を取りこんだ基本書や逐条解説*3の改訂も行われるだろう。そう考えると,ガチ勢以外は,改訂内容が固まって,ラインナップが出そろう時期まで,もう少し待ってみてもよいかもしれない。


医療分野限定ではあるが,こんな本もある。本書は法律の解説書ではないので,法務担当が参照する必要性は低いかもしれないが,医療情報と個人情報の関係はホットな分野なので,参考まで。

医療情報の利活用と個人情報保護

医療情報の利活用と個人情報保護


マイナンバー本では,法令の解説書の決定版と呼べる書籍が刊行された。

番号利用法――マイナンバー制度の実務

番号利用法――マイナンバー制度の実務

これでもか,というくらい詳しく書かれているので,辞書的に置いておくのにオススメ。実務書としては,すでに牛島総合の影島先生が多くの書籍を出されている。

企業・団体のためのマイナンバー制度への実務対応

企業・団体のためのマイナンバー制度への実務対応

【BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS】担当者の疑問に答える マイナンバー法の実務Q&A My Number Act Practice Q&A

【BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS】担当者の疑問に答える マイナンバー法の実務Q&A My Number Act Practice Q&A

IT法務の実務本

2012年から2014年にかけては,クラウドやインターネットに関する法的論点を整理・解説したり,Q&A形式で回答するという書籍がたくさん刊行された。2015年になって,それらはひと段落したような印象を受けており,よりスペシフィックな内容の文献が出てきているように思う。


いきなり拙書の紹介になってしまうが,下記は,これまで「契約」にしか焦点があたっていなかった分野において「紛争対応」を中心に整理したもので,類書がないと自負している。

【BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS】システム開発紛争ハンドブック―発注から運用までの実務対応 Legal Handbook for Resolution of Disputes Over System Development

【BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS】システム開発紛争ハンドブック―発注から運用までの実務対応 Legal Handbook for Resolution of Disputes Over System Development


また,スマートフォンアプリに関する法律・契約の解説本として,今年は2冊刊行された。下記は,当ブログでも紹介しているが,後発ではあるものの,外部弁護士,インハウス弁護士,法務担当ら,それぞれのレイヤーの得意分野を担当し,丁寧でわかりやすい仕上げになっている。スマートフォンアプリのビジネスをやっている企業の法務担当は,外部の弁護士に聞く前にこの本を紐解けば,簡単な問題は解決できるし,前提問題を理解することができる。

【BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS】アプリ法務ハンドブック

【BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS】アプリ法務ハンドブック


IT法務といえば,プロ責法に基づく削除請求,開示請求の仕事を想起される人も多い。私はこの手の実務をほとんどやらないので,実務的なことは全然詳しくないのだが,この分野での実務本としては,下記をお勧めしたい。

サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル

サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル


著者の清水先生は,この分野の第一人者であるし,2ちゃんねるをはじめ,個別サイト別の対応方法なども書かれており,被害に遭った方,相談を受けた弁護士,双方にとって有用だと思われる。


次に紹介するのは,弁護士とセキュリティ専門家のコラボで書かれた下記の書籍。

訴訟・コンプライアンスのためのサイバーセキュリティ戦略

訴訟・コンプライアンスのためのサイバーセキュリティ戦略


法律書というよりは,情報保護のための戦略指南書となっている。法律実務者としては,第2章(企業における情報漏洩の現状と具体的対応策)と,第4章の座談会形式の部分が参考になる。


最後に,IT法・情報法とは意味合いが異なるかもしれないが,デジタル証拠と法律手続(特に訴訟手続)にフォーカスを当てたのが,高橋郁夫ほか「デジタル証拠の法律実務Q&A」だ。

デジタル証拠の法律実務Q&A

デジタル証拠の法律実務Q&A


我が国の訴訟実務では,いまだに完全紙ベースであり,メールやウェブサイトの情報,SNSのやり取りを証拠として提出するには,プリントアウトした「書証」として提出する。成立に争いがないことが多いので,問題になることは少ないが,こうした証拠を保全,利用する際の注意点が書かれており,参考になる。この種の話は,ITに詳しいとかそうではないというレベルではなく,うっかりすると弁護過誤にすらなりかねないので注意が必要だ。


(12/28 14:20 1冊追記)

著作権法実戦問題

著作権法実戦問題

一冊,追記。本書は椙山先生を中心に,虎ノ門南事務所の先生方が執筆したもので,「現在問題となっている最先端の問題や,基礎論にわたる問題を広く取り上げ,字数の割には突っ込んだ記述をしており,小論文集といってもよい内容になっている」(はしがき)。テーマも,ドローン等が撮影した写真の著作物性,キュレーションメディアの問題など,新しい話題が豊富。
(追記終わり)

*1:実務的なQ&A本は山のように存在するが

*2:ただし,つっこんだ見解は見られない。

*3:宇賀先生,岡村先生本など