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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

川井信之『会社法入門』を読んで

すでに多方面で紹介されているが、川井先生の単著『会社法入門』が素晴らしかった。

 

手にとるようにわかる会社法入門

手にとるようにわかる会社法入門

  • 作者:川井信之
  • 発売日: 2021/02/03
  • メディア: Kindle版
 

川井先生といえば、長年、企業法務に関するブログを続けられていることで有名で、中堅からベテランの域に達する。会社法の分野ではすでに多くの論考などを出されているところ、「予備知識のないビジネスパーソン、起業家、学生の方でもゼロからわかる!」(カバー裏)という入門書を書かれたというのは少々意外だった。

この入門書は、法律を初めて学んでいく法学部生やロースクール未修者向けでもあるけれど、どちらかというと、実際に会社法に関わる業務を扱う人(ビジネスパーソン、法務部門の新入社員)に適している。会社法のセオリーをわかりやすく説くというよりは、取締役会とか、新株発行とか、合併とか、企業の実務に関わる人に、理論的な部分を蔑ろにすることなく、必要な事項を簡潔に書いている。

例えば、株式の譲渡。会社法を学んでいると、株券発行会社とそうでない会社での譲渡方法について学ぶが、上場会社株式の譲渡方法についてはあまり触れられない(もちろん教科書には書いてあるけれども。)。本書では、これら会社法に定める譲渡方法のほか、振替制度のことが同じ分量以上を割いて説明されている。

他にも、司法試験の観点からはほとんど読み飛ばしてしまう指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のこともミニマムではあるが、制度趣旨などもしっかりと書いてあるし、「計算書類」「決算手続」など、実務上大変重要なところの説明が丁寧だ。逆に、株主総会決議取消や役員の責任など、学問上の関心が高い部分が実務上の出現頻度が低いものは比較的さらっと書いてあるにとどまる。

「企業法務のプロが書いた!」ものであるからこそ、実務での使用頻度が高いトピックを、実務に関わる人の視点で書いたものであると言える。そんなわけで最初は気になるトピックだけをつまみ食いするつもりだったが、気づいたら最初から最後まで通読していた。

あまり会社法に関する書籍を人に勧める機会はないけれど、起業した人や、法律専門家ではない管理部門の人などで「会社法を知りたい」という人にはぜひお勧めしたい。

 

敢えていうならば、電磁的方法による議決権行使の方法として、「株主がそのIDとパスワードを利用して専用のウェブサイトにログインして・・」というところは今ならQRコードからアクセスするのが通常だと書いてしまってもいいと思う(107頁)。また、非公開会社の取締役の任期を10年とした場合に、途中で解任すると「残りの8−9年の任期分の役員報酬に相当する額を賠償しなければならず」というところは(123頁)、最大リスクの提示としては正しいものの、私の知る実務上は裁判所もそこまで最大限はなかなか認めないように思うのでこの辺りは他の実務家の先生方とも意見交換をしてみたいところだ。