偶然見つけた短編小説集。これがなかなか爽やかな読後感が得られる好作品だったので, 紹介しておきたい。
短編小説だけれど,ある作品のわき役が,次の作品の主役になっていたりするなど,登場人物が少しずつ重なり合っていたりして,読んでいて「おっ」と思わせる場面がいくつかある。
筆者は,単に取材によって将棋界のことを調べたというより,あたかも自ら体験してきたのではないかと思わせるようなリアルな描写が多い。特に前半の作品からは,将棋に打ち込む少年少女が,研修会,奨励会で切磋琢磨するシーンが心理描写も含めて「あるある」感が伝わってくる。さらにその親御さんが,訳も分からない将棋の世界に入ろうとするわが子に戸惑いながらも応援していく姿が涙が出るほどよくわかる。
他にも元奨三段の観戦記者や,初めてのデートをする現・三段が主人公だったりするなど,そこに目をつけるかぁ,と思わせるほっこりとしたエピソードばかりで,非常に爽やかな気分にさせる短編集だった。