Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

サイバー判例回顧2017-2018

毎年恒例の,町村泰貴先生の「サイバー判例回顧」勉強会(東弁消費者問題特別委員会,インターネット法律研究部共催)に出席してきた。


昨年の様子。

http://d.hatena.ne.jp/redips/20170724/1500907622


このときのレジュメをカバンに入れておいて,紹介された判例を空き時間などで判例DBで読んだりブログの元ネタにしよう・・と思いつつ,1年が過ぎていたorz


構成は昨年と同様で,注目のテーマをフィーチャーして関連裁判例を挙げつつ,「その他」を含めて150件ほど紹介されていた。


注目テーマからいくつかピックアップすると,

GPS端末令状なし捜査(2017年大法廷判決のその後)

昨年の大法廷判決(最大判平29.3.15)を受けて,GPS端末の無断設置による証拠は違法収集証拠であるとして,証拠能力を否定し,無罪とした事例(東京地判平30.3.22)もあるが,証拠能力を否定しつつも,有罪とした事例もあった。

忘れられる権利

昨年の最高裁決定(最決平29.1.31)を受けたものの,犯罪歴を検索結果から削除することを認めた事例は多くない(否定例:東京高判平30.1.25(歯科医師法違反),東京高決平29.10.6(飲酒運転逮捕歴)など)

NHK受信料の負担

これも数年前から注目だったが,最大判平29.12.6が極端にNHK寄りの判断で決着がついた。その後も,客室のテレビの台数ごとの受信料支払を命じた事例(最判平30.2.9)や,ワンセグ受信可能端末についての受信料支払義務を認める事例(東京地判平29.12.27)が相次いだ。

なりすましとアイデンティティ

なりすましそのものから権利侵害を認める事例は少なく,なりすましによる肖像権侵害を認めた事例(大阪地判平29.8.30)があるが,仮処分にてなりすましによるツイッターアカウントの削除までも認めた事例(さいたま地決平29.10.3)が注目される。

リツイート著作者人格権

知財高判平30.4.25が注目を集めたが,これはリンクの法的責任といった大きな枠組みで語られるべきものというものでもなく,その判断もかなり微妙(トリミング,サイズ変更が同一性保持権侵害とされたもの)なので,先例的価値について疑問が呈されていた。