Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

Business Law Journal 2012/6メモ

今月のBLJは,なじみのあるテーマ,関わっている事件に関するテーマなどが多かった。


特集は「著作権法はビジネスの足かせか」。


その中で,法務担当者(匿名)のコメント(37頁)がうなずける。権利制限規定が続々と増やされてきたことについて,

(権利制限規定が)増えるのはいいのですが,法改正の流れを追っている人にしか理解できないような内容です。しかも,条文の書きぶりがとても細かいため,裏を返せば条文に書かれていない隙間の部分については違法なのか,という懸念が生じます。現場の担当者から「違法になりますか?」と聞かれた場合に「分かりません,知りません」では許されないので頑張って対応するしかないのですが,IT事業者は他の事業者から著作権侵害を指摘されやすいので気が抜けません。

確かに,「これは47条のXによって許諾なく利用できるか?」と聞かれて困るときがある。そのほかに,この方の指摘は現場の混乱,不安,不満を端的に示していると思う。


パワハラ問題の論考(52頁。高仲弁護士。)も,実際によく相談を受ける問題ではある。そこでは多くの裁判例を引いているが,ここでは,ひとつ紹介しておきたい。

(上司から部下へのメールで)『あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。これ以上,当SCに迷惑をかけないでください』という,それ自体は正鵠を得ていない面がないではないにしても,人の気持ちを逆なでする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分とも相まって(中略)送信目的が正当であったとしても,その表現において許容限度を超え,著しく相当性を欠くものであって,・・

として,5万円の損害賠償を認めた事例がある(東京高判平17.4.20労判914号82頁)。もちろん,他の事情があったにせよ,「正鵠を得ていない面がないではないにしても」としながらも不法行為が成立するとしたことは,使用者側,上司も留意しておきたい。


そして,AZX法律事務所の雨宮弁護士による「ウェブサービス利用規約の六つの重要ポイント」(62頁)も注目。利用規約の作成・レビューのチェックポイントとしておきたい。


一色US弁護士による情報コンタミネーションリスクに関する論考(68頁)も,日本国内ではあまり問題になることはないが,潜在的には技術系企業には起こりうる問題なので,リスクの認知と対策を一通りさらっておきたい。


「取引先の代表取締役と突然連絡が取れなくなったら?」(77頁,清水弁護士)は,少し前に私もこの点で非常に苦労したので興味深く読んだ。しかし,この解説に書いてあることに加え,代表取締役だけなく,会社の誰とも連絡が取れなくなり,商品,サービス,情報の所在がまったくわからなくなってしまうと,法律で解決できる問題はほとんどないのが実情だ(この問題については詳しく書きたいところではあるが,守秘義務の関係などからかなりセンシティブなのも辛いところ。)。