Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

リーガルデザインラボ・研究発表

本日11月23日,慶應義塾大学SFC ORFオープン・ラボで,リーガルデザインラボの研究発表を聴講してきた。


www.cloudsign.jp


パネリストは,弁護士ドットコム,クラウドサイン事業部で,「サインのリ・デザイン」編集長である橋詰卓司(@takujihashizume)さんと,リーガルデザイン・ラボの研究員で,私の同僚でもある水野祐(@TasukuMizuno)。


内容は刺激的で,すでにいくつかツイートされているので,私が印象に残ったことをいくつか。


契約の『ペイン』を探るため比較的大規模に実施したアンケートの結果が興味深い*1。思ったほどペインが強くないという印象だが,それは契約に関わる頻度が大きくないことや,ビジネス上のもっと大きな問題が大きいからではないかと思う。この結果,リーガルテックがそれほど世の中に求められていないなどと感じる必要はない。また,細かいことだけど,アンケート結果の示し方,グラフィックスは,シンプルながらわかりやすく,勉強になった。


sli.doというサービスを使ったインタラクティブなやり取りの試みがよい(実際には時間がなくて,コメントを拾えていないけれども)。

www.sli.do


これまでも,ニコ生などで流れるコメントを登壇者が拾うなどといったことは行われていたけど,専用のプラットフォームがあって使い勝手もよい。多数とまではいわないけれど,比較的参加者の意欲が高く,(私も含め)いくつかのコメントが寄せられていた


クラウドサインのエンジニア・高瀬さんと橋詰さんとの会話から提起された「契約書の開発環境」という概念が興味深かった。そういえば,開発作業に従事していたときは,きちんとしたエディタやツールを使って,開発環境が整っていた。翻って,契約書の開発環境といえばMS Wordのみ・・・。これでは,viか秀丸だけを使っているよりも劣るのではないかというレベルだということに気づく。


以下は,感想。


リーガルテックといえば,契約「書」周りの業務効率化が先行していて,様々なサービスが誕生しているけれど,契約書のコンパイラというかチェッカーがあればいいのになと思う。契約書は,ひどいレベルでは日本語として崩壊している,誤字がそのままになっているものから,定義があいまい,間違っているものもあり,そういったsyntax errorくらいを拾ってくれるだけでも大いに助かる(判決で,「本件契約書(甲●)第4条の・・はxxの誤記であると思われる。」などと書かれることも減るだろう。)。


アンケートの中でも出てきたけれど,エンジニアは,契約書とソースコードの類似性に気付いているせいか,契約書に対する関心が高いと感じる。そして,上記のようなsyntax errorを指摘してくるだけでなく,「末尾に『ものとする』がついているときと,ついてないときだとどう違うんですか。」などと答えに窮する素朴な疑問をぶつけてきたりする。


契約書の標準化が進むことは大いに歓迎だけれども,それが契約条件の統一化を意味するものではないことに注意したい。「業務委託契約書といえばコレ」というような雛形を作れば法務や弁護士は必要ない,というような簡単な話ではなく,あくまで個別の事案に応じた考慮が必要で,そこをいい加減に雛形のみで進めると痛い目に遭う。とはいえ,パターン化,コンポーネント化は可能であって,その組み合わせを考えながら作っていくということが「標準化」であるべきだと思う。

*1:アンケート結果は, eBook「日本のリーガルテック2018-2019」の無料配布を開始 - サインのリ・デザインにて詳しく紹介されているとのこと。