本日,公正取引委員会から「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」の最終報告が公表された。
アンケートの結果自体は興味深いが,アンケートにおいて「納得いかない行為をされた」と答えた割合は20%で,特に酷い事例が掲載されているのであって,現在の大企業や投資家がスタートアップから日常的に不当に搾取し,イノベーションを阻害している,とするのは短絡的な見方だろう。
この報告に関して,日経新聞では,株式の買取請求権が濫用されているといったことがクローズアップされていたが,
公取委の調査では大企業やVCがスタートアップに対し、不当な要求をするケースが多いことがわかった。特に公取委が問題視するのは出資者による株式の「買い取り請求権」の乱用だ。
出資者が出資先企業に株を買い取るよう請求できる権利で、大企業やVCがスタートアップに出資する際の慣習となっている。スタートアップは実際に請求されると、資金的に困るケースが多い。大企業がこうした状況を利用し、買い取り請求権の行使をちらつかせながら、不当な要求をするケースがあるという。
実態としては,同報告書にある投資家のコメント
買取請求権の行使はほとんどなく,国内において年に数回あるかどうかである。買取請求権の使い方として,実際に行使するのではなく,スタートアップの経営を管理し,交渉の材料として提示することがある(50頁)
のほうが実務的な感覚に近い(ただし「国内において年に数回あるか」ということが,当該投資家の出資先において年に数回もあるとしたら異常に多いのだけれども・・)。
リーガル的には報告書の第4「スタートアップの取引慣行の実態と独占禁止法上の考え方」に目が行く。
(報告書概要の2頁。本文では65頁以下に詳細に記載されている。)
そこで挙げられている「優越的地位の濫用」や「拘束条件付取引」などの例は,従来のガイドラインなどに照らしても,そうだろうな,と思えるようなもので,特に新たな解釈が示されたというものではなさそうである。
特に,先ほどの買取請求権のところについては,下記のようにそんな酷い例を設定するケースはほとんど見ないし,それを押し付ければそりゃ,優越的地位の濫用になるよね,というものが挙げられている。
(要約15頁。本文では82頁以下。)
もっとも,買取請求権などを含めた投資契約でスタートアップに厳しい条件を提示するのは,VCというよりは,事業会社で,融資とほとんど変わらない条件を無邪気に突き付けてくることがあるので要注意ではある。