Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

法とコンピュータ学会研究会2018

年に1度の法とコンピュータ学会研究会が明治大学で開催されて参加した(いちおう,同学会の末席理事でもあるし。)。


全体の共通テーマは「海賊版サイト対策とブロッキング」。知財法・IT/情報法を横断する今年最大のトピックだが,4月以降,激しい議論が繰り返されており,半年以上たってもなかなか沈静化しない。

基調講演:上野達弘「ブロッキングとリーチサイトをめぐる議論状況」

知的財産戦略本部・インターネット上の海賊版対策に関する検討会議のメンバーでもある上野先生による論点整理。


それにしても,上野先生は講演慣れしているとはいえ,なぜここまで無駄な言葉なく,よどみなく,聞き取りやすい滑舌でお話しされるのか。そのため,単位時間当たりの情報量が多いので,ついていくのは大変だけれども。

基調講演:立石聡明「防弾ホスティング・CDN・ブロッキング 仕組みと諸課題について」

同じく検討会議のメンバーである立石先生によるブロッキング関連の技術面の解説。


末尾に「現在語られているブロッキングには,無数の回避策が存在しているため,万が一『ブロッキング法』が成立しても,『通信の秘密』が侵害されるだけで,著作物は決して守られない。」と力強く結ばれている。

研究報告:山口貴士「米国民事訴訟のディスカバリー制度を活用して海賊版サイト運営者の特定に成功した事例について」

すでにニュースで話題になった山口先生(@otakulawyer)が海賊版サイトの運営者を特定した活動についての報告。


実物の訴状などの書面を投影しながら,手続の流れが説明された。


この手法のポイントとして,次の3点が強調されていた。(1)Subpoenaには強制力があり実効性あり,(2)訴訟提起から実質17日間で情報開示という迅速性,(3)開示される情報に限定はないため汎用的。


会場から次々と挙げられる質問に対し,制度・手続の解説や,自身のご意見なども端的にズバズバと答えていく姿は聞いていて気持ちよい。


余談だが,講演が始まる前に山口先生と小倉先生が名刺交換をする場面をたまたま目撃したけど,なぜかとても印象的だった。

研究報告:山岡裕明「海賊版サイト対策としてのCDNサービスに対する削除請求及び開示請求」

こちらもすでにニュースで話題になっている件で,山岡先生からCDNに対してプロ責法に基づく請求を行った事案の経過についての報告。


印象深かったのは,

  • この件では,被保全権利を著作権ではなく,人格権。著作権だと知財部に係属。人格権は9部。法律上の要件だけでなく,係属部も考慮して被保全権利を選択したという話
  • CDNが有すると思われる海賊版サイトのIPアドレスはともかく,投稿者のIPアドレスは,「侵害情報に係るIPアドレス」(プロ責法省令4号)に該当しないとの裁判所からの示唆(CDNの管理作業のためのアドレスなので人格権侵害情報ではないのでは)により,そこは取り下げたこと
  • 仮処分決定書をGoogleに送付すると検索結果から非表示にしてくれるので,CDNが正式な対応をするまでの暫定策にはなること


投稿者からエンドユーザまでの間にCDNというレイヤーがひとつ加わっていることでより情報流通経路が複雑になったといえるが,今回の活動によってそこに風穴を開き,汎用的に使える部分もあるので,大変有意義だと思った。


また,最後にやや暴露気味に,2017年時点で漫画村運営者に関連する情報を大手出版社に提供したところ軽くあしらわれたという話が振られてザワついたのがハイライト*1

パネルディスカッション「ブロッキングの諸問題」

大人数による何でもありディスカッション。パネラーは (敬称略)赤松健,上沼紫野,成原慧,林いづみ,福井健策,別所直哉,橋本和明,前田哲男,丸橋透,村尾治亮,森亮二,小倉秀夫(モデレータ)。


知財本部のほか,非公式な場面も含め,すでに多くの議論が行われているので,激論が交わされたということもなく,比較的モデレートな形で進行した。ブロッキング推進派と思われるパネリストたちも,発言に慎重さがうかがえた(一部のパネリストには,質問内容についてのいら立ちも見られたが。)。


興味深かったのは,漫画家・赤松健氏の報告で,漫画村の閉鎖前後での電子書籍売上推移などの生々しい情報や,新しい仕組み(第三者による合法的アップロードの試み)が紹介されたこと。


ブロッキングの問題と絡めて話題に上がるのは,静止画ダウンロードの違法化問題であり,すでに文化審議会でも議論が進んでいる(映像・音楽についてはダウンロード違法化されているが,その範囲を広げるという議論。*2)。こちらについても要注目。


さて,そろそろ質問が終わってお開き・・というところで,鈴木正朝先生と林いづみ先生*3とのバトルが始まって時間が延長・・

*1: https://twitter.com/kirik_game/status/1063677974459777025

*2:参考:http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h30_05/

*3:会場からの鈴木先生の質問に対して「初めてお目にかかりました」からのジャブ。