先週末,6月17日に第1回情報法制シンポジウムに参加した。
情報法制学会・情報法制研究所
■第1回情報法制シンポジウム プログラム
https://www.jilis.org/conference2017.html
無線LANのただ乗り問題など,多くの興味深いテーマがあったが,パネルディスカッション「オンラインゲーム業界の資金決済法対応の解決にむけて」で行われた議論を一部紹介する。
パネリストは,LINEの江口さん,弁護士の板倉さんらのほか,資金決済法といえばということで,MHMの堀先生も登壇。
議論の題材となったのは,昨年話題になったLINEの二次通貨問題に端を発するオンラインゲームのコインやアイテムの取り扱い。「宝箱の鍵」のようなアイテムが,資金決済法の「前払式支払手段」に該当するかという極めて実務的な論点はありつつも,もっと根源的な問題として,現在のAndroid/iPhoneのプラットフォームで動くスマホのオンラインゲームにおいて,同法の規制は本当に適切なものなのだろうか,具体的には,発行残高の50%もの供託金を積むことが本当に必要な規制なのだろうかといったことが議論された。
確かに,先に対価を得てコインやポイントなどを与えておきながら,ゲームの運営会社が倒産してしまってゲームの運営が停止してしまった場合,先に払った対価に見合うサービスを受けられなくなってしまう。そのような場合に消費者を保護する必要性があることについては理解できる。しかし,実際に自家発行型でそのような供託義務を定めている国はほとんどないようだ。その上で,
- ゲームの運営が終了することはあるとしても,ゲーム会社が倒産してしまったというような事例は頻発しているのか?
- そのために残高の50%もの供託金を各社が積んでおく必要があるのか?
- 供託金は,Apple/Googleに払わされる手数料を考慮しないでグロスで計算されるが,それは妥当か?確かに,30%のApple税と,50%の供託金を考えると,下記の図の例では,ユーザが1000円を投じていても,ゲーム運営者の手元に残るのは200円だけになってしまう。
- 法律上明らかにされていないのに,無料発行分と区別していなければ,無料発行分も含めて残高を計算しなければならないという規制は合理的なのか?(金融庁のガイドライン)
- そもそもゲームのユーザは,コイン等の一次通貨はともかくとして,二次通貨と呼ばれるものまで最終的に返金されることを望んでいるのか?
(資料 の9頁より引用)
といった疑問について,単なるゲーム事業者のボヤキといったレベルではなく,事実関係の調査を踏まえて中身の深い議論が行われた。そのうえで,いくつかの提言もなされた(詳細は,前掲資料を参照。)。
立法を担当された堀先生によれば,前払式支払手段の規制が導入される時点では,スマホのゲームでの課金が一般的ではなかったから,規制内容の議論の際に,これらを念頭に置かれたものではないし,規制を避けるためには180日の有効期限を設定すればよいのだから,大きな問題になるとは考えられていなかったようだ。しかし,Appleの規約により,アイテム等に有効期限を設けることができないから,現実には資金決済法の規制を形式的に交わすことができない*1。
私も実務でオンラインゲームと資金決済法の問題を扱う際には,そもそも前払式支払手段該当性のレベルから悩むことも少なくない。「有償・無償は区別しておかないと無償分も供託しないといけなくなりますよ」と語りつつも,なんだか不合理というか過剰な誰得規制だなあと感じていたところ。正直なところ,法に触れないとしても,欺瞞的な手段で課金を煽るサービスも中にはあって,そういったものには感心しないが,規制は懲罰でもないわけで,保護法益に対して適切なバランスでなければならない。