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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

著作権法におけるプログラムの「実行」の扱い

平成30年著作権法改正の目玉として,柔軟な権利制限規定が導入されることとなっているが,それに併せて,マイナーな改正が行われるので,そこに注目してみた。

それは,従来,プログラムの著作物の「利用」とされていた箇所が,「実行」へと変更されたという点である。

 

例えば,47条の3。これは,プログラムの著作物の権利制限規定として有名な規定である。改正後の第1項本文を見てみると

プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。

 「実行」の部分は,現行法では「利用」だ。ちなみに,後段の「複製」の部分は,「複製又は翻案(カッコ内略)」である*1

 

ほかにも,技術的利用制限手段の定義である2条1項21号や,同一性保持権に関する20条2項3号も同様に,「利用」の部分が「実行」に変更されている。

 

著作権法を少し勉強すると「利用」と「使用」の言葉が区別して使われているのだ,という説明に出会うことが多い。実際,私もそのように説明することも多かった。「利用」は,支分権該当行為(複製,演奏等)を指し,「使用」はそれに該当しない行為で,本であれば「読む」,音楽であれば「聴く」などの行為を指すと言われていた。そして,プログラムの場合,複製,譲渡などが「利用」であり,実行するだけでは複製行為は存在せず「利用」ではない,と言われたりした*2

 

しかし,このような解釈を,上記47条の3第1項に当てはめると違和感が生じる。つまり,後段の「複製」の部分を「利用」に置き換えると,「当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において,当該著作物を利用することができる」となってしまい,「利用するために利用する」となってしまうからだ。

 

今回の改正で,「プログラムの利用」という記載が「プログラムの実行」に改められている。プログラムの利用という,何を指すのかよくわからない行為を「実行」という明確な言葉に改めたものと考えられる。そして,新30条の4第3号には,

三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

と書かれているが,「利用」の中から「プログラムの実行」を除くとしているので,実行とは,利用の一態様であると考えられていることがわかる。

 

これらの記載からすれば,「利用」とは支分権該当行為であって,典型的には複製であるから,プログラムの実行は複製ではないとされているから「利用」ではない,という考え方は正しくないことになる。

ソフトウェアライセンスは,ソフトウェアの複製等を許諾するものではなく,実行を許諾しているにすぎないから,利用許諾ではなく使用許諾だ,などとも言われていたが,今般の改正からみれば,利用許諾という文言を使っても問題なさそうである。

 

他方で,113条2項(侵害とみなす行為)の「使用」は「実行」に変更されなかった。

2 プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(略)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。

この規定は,従来「利用」と「使用」を区別して用いられていることの根拠規定の一つだったと思われるが,この部分は改正されていない。ここの「使用」は当然に「実行」を指すものと思っていたが改正されなかった理由はよくわからない。

*1:「翻案」の文言が削除されたことによって,翻案できなくなったわけではない。これは新47条の6第1項2号をみないとわからないが・・

*2:

第2小委員会(コンピユーター関係)報告書 | 著作権審議会/文化審議会分科会報告 | 著作権データベース | 公益社団法人著作権情報センター CRIC の第2章Iの7では,「利用」ではないとは書かれていないが「複製」ではないとされている。