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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

先手をもって指してみたい

先週日曜(2月8日)は,将棋史上空前規模のイベント「車将棋」が開催された。


あまりにもシュールなイベントだったが,個人的には楽しめた。このイベントの特徴の一つは,多様なゲストがスタジオに訪れてガチな将棋ファン以外の視聴者を退屈させないようにしていたことだった。


乃木坂46伊藤かりんさんは,将棋好きということで,ゲストに来ていた*1。うろ覚えだが,大盤解説にも引っ張り出され,室谷由紀女流から,「伊藤さんは,どちらをもって指してみたいですか?」と聞かれて,「??」という反応だった。


すぐさま室谷さんは雰囲気を察知して,「自分が指すとしたら,どちらで指してみたいと思いますか?」と言い換えて,そのまま進行した。


この伊藤さんの反応は私にもよくわかる。タイトル戦などの中継を見始めたころ,解説やゲストの棋士が「先手をもって指してみたい」というコメントをしていたのを,最初は意味が分からなかった。その意味するところは上記のとおりなのだけれど,これがなかなか奥が深い将棋らしいコメントだ。


解説を担当する棋士は,プロとして,どちらが優勢かどうか判断して視聴者に伝えることが求められる。しかし,形勢判断はプロでも容易ではない。そんなとき,「私なら,途中で対局者と交替して指し継ぐとすれば,先手の棋士と交替したいですね(そのほうが,勝ちやすい,あるいは自分の棋風に合う)」という意味で「先手をもって指してみたい」という表現は便利だろう。客観的な形勢判断ではなく,あくまで主観。「私だったら」というコメントだから,仮に多数意見と外れていても問題ない。大物棋士の側を「劣勢」と断言することも避けられる(もちろん,解説の棋士がそのような配慮をしたりしているわけでもないだろう)。


話は変わって,本日,第8回朝日杯将棋オープン戦の公開対局を見に行った(午後の決勝戦のみ)。残念ながら準決勝で敗退した豊島七段は,決勝戦ではゲストとして登場していたが,山崎隆之八段の「形勢は接近してきました」という発言に対し「いや,そんなことはない」と断言していたことが心強かった。


最近では,中継の際に将棋ソフトが出した評価値を表示することもよく行われる。そういうこともあってか,棋士が「むずかしい」「形勢不明」などと答えて,形勢について断定的表現を避けるような気もしている。視聴者は別に,解説者に将棋ソフトの評価値と同じ結果を求めているわけではないし,優勢と判断した対局者が負けたからと言って非難しようという気は毛頭ないはず。なので,もっとどんどん踏みこんで,視聴者に分かりやすいストレートな表現を使ってもらいたいと思う。