Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

あから2010勝利への道

情報処理学会誌2010年2月号(Vol.52 No.2)の特集は「あから」。全体で40ページほど。


昨年10月11日に,コンピュータ将棋「あから2010」が清水女流に勝利したというのは,新聞などでも大きく報道され,世間の注目を集めた。この企画は,情報処理学会の50周年として企画され,将棋連盟に持ち込まれたものである。


私が修士課程の頃は,情報処理学会誌には目を通していたが,10数年ぶりに購入した。学会誌といいながら,将棋の解説は「将棋世界」よりもわかりやすいし,コンピュータプログラミングの解説は,今の私が読んでも分かるレベルだから,それほど難しくない。清水女流,中川八段のスピーチや,佐藤康光九段の解説もあって,なかなか読みごたえがある。


以下,いくつか気になったところをピックアップ。


まず「1 対戦までの準備と当日の模様」(伊藤毅志)。著者は,私の修士のときの研究室の先輩で,認知科学,コンピュータ将棋の研究者。「あから」の名付け親でもある。あからのイメージキャラといえば,将棋の駒からロボット風の手足が伸びている奇妙なキャラなのだが,

http://www.blogcdn.com/japanese.engadget.com/media/2010/10/akara.jpg

なんとこれは,

キャラクターのデザインはYSSの山下宏氏の知人の提案したキャラクターを情報処理学会のデザイナーが修正する形で完成した。

ということで,プロの手が加わっていた(155頁)。


この将棋は,後手である「あから」が3三角戦法を採用したことで知られるが,なぜそれを採用したのか,という背景も興味深い(170頁以下)。


この企画は,初めから3段階でプロと対局することが計画されていたようだ。第1弾として女流,続いて,中堅プロ,最後に名人クラス。ただ,その思いは,情報処理学会日本将棋連盟とでは違っているところもある。昨年のイベントには3億円規模の資金調達をもくろんだようだが,思うようにスポンサーが集まらなかった。そういう意味では,第2弾以降について,

ただ,スポンサーがつかない問題は今後も対戦の足を引っ張る要素として気がかりである。将棋連盟はあくまで興行として考えているようなので,今回の対戦は赤字で大変ご不満である。赤字の大部分は棋士を含む人件費,一方我々はあくまで学会活動の一環としてやっているので皆無償で働いている。学会として会場費やコンピュータ使用料は出せてもプロ棋士への報酬までは出せない。このあたりの考え方の違いに折り合いがつかないと(略)今後の対戦は難しいかもしれない。次の対戦が実現しないうちに,プログラムが人間よりはるかに強くなってしまわないことを祈るのみである。
(中島秀之,190頁)


と若干,米長会長の姿勢を皮肉っているようにも読める*1


私も,これだけ清水女流との対局がメディアに注目されたのだから,ファイトマネーは抜きにして1年に1度くらいのペースで,少しずつ格上の棋士を登場させ,3,4年後にラスボスの羽生名人,渡辺竜王あたりにご登場願うというストーリーがよいと思うのだが。トッププロがコンピュータに負けたからといって,将棋人気がかげるとは到底思えないし。

*1:米長会長は某雑誌で,羽生名人クラスがコンピュータと対局するときのファイトマネーはン億円だという話をしていた