Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

コンピュータが自動生成した創作物

機械翻訳や,AIが作った文章,コンパイラが吐き出したオブジェクト・コードに代表されるようなコンピュータが機械的に作成した創作物の著作権帰属について。


この問題は早くから認識されていて,各所で議論されている。古くは,昭和48年6月の著作権審議会第2小委員会の報告書があるようだ。その要旨は次のようなものである*1

(1) コンピュータは、創作を目的とするプログラムを基礎として、プログラムの作成者により設計された体系に従って、データとの組合せにより無数の作品をアウトプットとして作成することができる創作機器として、主として作曲に関し用いられている。
(2) コンピュータ創作物は、プログラムの作成者がコンピュータをいわば道具として使用し、その思想感情を具体化したものであるから、著作物であり得る。
(3) コンピュータ創作物の著作者が誰になるかは、創作の実態によって異なり、一律に決定することは困難であるが、コンピュータ創作物は、その創作を目的とするプログラムの作成者の設計した体系の枠内にあり、その者の思想感情が創作的に表現されているといい得るので、プログラムの作成者は、コンピュータ創作物の著作者たり得る。
(4) コンピュータ創作物がアウトプットして自動的に得られる素材を加工し、完成したものである場合、素材を個性的な作品に作り上げる芸術家は、プログラムの作成者とともに創作物の共同著作者たり得る。
(5) インプットされるデータがコンピュータ創作物の表現に個性的に反映する場合は、データを吟味選択してインプットした者も共同著作者の一員を構成する。
(6) コンピュータを操作するにすぎない、いわゆるオペレータやコンピュータの所有者又は管理者にすぎない者は、コンピュータ創作物の創作に何らの精神的寄与をしないので、コンピュータ創作物の著作者たり得ない。


また,手元にある中山信弘「ソフトウェアの法的保護(新版)」(昭和63年・有斐閣)の30頁では,ソースコードからオブジェクトコードへの変換が「複製」であるとした東京地判昭57.12.6判時1060-18を端緒に議論を展開している。

今後は,人間の創作行為なしに結果として創作物が発生する,すなわちコンピュータ自身が創作的行為を行うということは,ますます増加すると思われる。(略)このような事態は,現行著作権法の全く予定していないところであり,最終的には法改正を待つ以外に根本的な解決はありえないだろう(現在,著作権審議会において議論されている)。

上記で「議論されている」とした審議会の報告書。文化庁が出した平成5年11月,著作権審議会第9委員会(コンピュータ創作物関係)報告書によると*2,コンピュータ創作物に著作物性はあるか,コンピュータ創作物の著作者が誰かといったことについて詳細に検討を加えつつも,立法的措置については,「なお慎重な検討を行うことが適当と考える」「基本的には現行法の諸規定を適用することによって対応可能である」と結んでいる。


それからさらに20年が経過したものの,あまり議論は深化していないように思われる。最近出た中山信弘著作権法【第2版】」(平成26年有斐閣)の220頁以下では,

現行著作権法は,人以外の機械が創作的行為をなすということを想定しておらず,いずれの考えを採用したところで,理論的な破綻を来たす。その意味から立法的解決が望まれる。その際には,コンピュータ創作物の扱いは,従来の著作権の枠組みでは解決不可能であるという認識が必要であり,コンピュータ創作物特有の思い切った判断が求められよう。

と結んでいる。20年近く経って,それこそ,コンピュータによる創作行為については飛躍的進歩が起きて,バリエーションも広がっているが,現行著作権法の枠組みのもとでもあまり問題は生じていないのだろうか。


何も「コンピュータ創作物」などと仰々しく考えなくとも,今や音楽にしろ,絵画にしろ,映像にしろ,創作行為にコンピュータの利用は不可欠である。単なる道具という範疇を超えて,仕事の大部分をコンピュータにやらせてしまっている例も多い。


この議論は,コンピュータを介して創作された作品をクローズドなところに押し込めようという議論ではなく,自由な利用を促進したりするためにも,重要な議論である。権利関係が明確になっていない限り,委縮効果が生まれ,自由な利用が阻害される。


この問題については,まだまだ不勉強なところが多いのだが,今日たまたま少しだけ追いかけてみたので,これからもう少し勉強してみなくては。

*1:後述する第9小委員会の報告書の前提事実より抜粋

*2:昭和61年3月以来34回にわたる審議が行われた。http://www.cric.or.jp/db/report/h5_11_2/h5_11_2_main.html