前回に続いて対局について。
初日
WOSC大会のシステムは,9回戦マクマホンシステムで行われる(初日3局,二日目4局,三日目2局。)。日本の大会でよく行われるスイス式と似ているようだが,その違いはわからない。通常のスイス式と違うのは,最初から棋力が近い者同士で対局するようになっている一方で,棋力の高い人はポイントでゲタをはいているところか(そうしないと,棋力の低い人が連勝して優勝してしまうことになりうる。)。同時並行開催されているEuropean Shogi Championshipは,32人のトーナメントシステムで行われるが,その成績も自動的にWOSCにカウントされる。負けた人は順次WOSCのリーグ戦に流入してくる。
息子の対局相手は初日の3局はすべて日本人だった。日本からの参加者は私たち親子のほか,「将棋を世界に広める会」からの3名。いずれも息子からみればおじいちゃんくらいの年配の方だった。対局相手が日本人に偏ったのは,強豪のヨーロッパ人はみなESCのトーナメントに参加しているからだ。
毎年ヨーロッパ各国で持ち回り開催されているこの大会は,今回,ベラルーシで開催されているため,参加者の半数くらいはベラルーシ人。そのほかも,ロシア,ウクライナからの参加者が多い。もともとドイツやフランスでも将棋は盛んなようだが,ビザの取得が容易ではないらしく,今回は残念ながら2名ずつの参加にとどまった。もっとも,苦労してビザを取得して参加するわけだから,いずれの方も上位入賞できる方だ。
初日の3局は,いずれもそれほど危なげなく勝って,3-0で終えた。二日目からはESCで負けたヨーロッパの強豪と当たるようになる。
私は,初日はロシア,ベラルーシの方と3局指して2-1だった。緒戦の相手は8級となっていたが,エラく苦戦した。3局目はESCを終えた1級に相矢倉から入玉したものの,最後に捕まえられてしまった。双方45分の持ち時間を使い切り,合計2時間くらいかかる熱戦だった。話によると,ヨーロッパの棋力認定は日本のそれより2つか3つくらい厳しくなっているようだ。
二日目
長男の二日目の1局目はポーランドのカロリーナさん。彼女は,日本の女流棋戦に招待選手として参加し,2年連続でプロに勝ち,研修会C2に編入した(ちなみにC1からは女流プロの資格を得られるので,その一歩手前である。)こともあって,有名人である。もちろん,初手合い。勝ち。
2局目は,ベラルーシの期待の若手で超がつくくらいイケメン(表彰式で知ったが,まだ17歳とのこと。)。長男によるとこの対局が全対局中もっとも苦しかったようで,かなり時間がかかっていた。私の対局も相当長引いていたが,その対局中に,画に書いたように悔しがるイケメンの姿を見て,長男の勝ちを知った。通算5局目のこの対局は,横でESCの決勝戦が行われており,地元のセルゲイさんが優勝した。
3局目は,そのヨーロッパチャンピオンになったばかりのセルゲイ・コルチツキーさんと手合いがついた。ESC決勝戦で力を使い果たしたセルゲイさんは,やや疲れていたようで,長男が勝ち,この時点で,6-0の単独首位に立った。
4局目は,ESCの3位,ウクライナのコロミエツさん。危なげなく勝って,7-0となり,順調にいけば,優勝できる位置につけた。
このころになると,まったく英語ができない長男も,少しずつ感想戦ができるようになってきた。研究熱心な人が多く,対局が終わると,問題となる局面に戻してどうすべきだったか?ということをかなり詳しく聞いてくる。長男も一言もしゃべらないが,駒を動かすと,相手がうなずいたり,さらなる質問をしてくるなどして,感想戦になると,周りに人だかりができるようになった。
私も,対局相手との会話は,いつも「Your son」についての質問だった。成績はまったくさえず,日本人最低棋力の参加者だったが,his Dadということで,いろいろ話しかけられることも多く,やっぱり長男を連れてきてよかったなと思った。
お金と時間を使ってベラルーシに来る人は,基本的に将棋オタクである。そういう人たちから見て,10歳の子どもが,ヨーロッパのスタープレイヤーたちに勝つとなると,「どういう生活をしているのか」「どうやって強くなったのか」「どういう勉強をしているのか」「将来どうするのか」ということが気になるようだ。「学校には行っているのか?」という質問すらあったほどだ。
私の対局について。1局目は,ベラルーシ少年と。78金と角頭を守らないまま24歩をついてくる元気のよい少年だったが,うまく咎めて勝つことができた。感想戦で,いくつか基本的な定跡を説明したら,すごく熱心に聞いてくれた。
2局目は,オランダの三段。振り飛車相手に57銀左から急戦がうまくいった。途中からはかなりもつれたものの,優位を保って勝つことができた。感想戦というよりは,息子の話ばかりした。
3局目は,ベラルーシで初心者の子どもを教えている1級の青年だった。この対局でもそうだったが,ヨーロッパの方のほとんどは振り飛車だった。お互い銀冠の堅陣で,こちらはもう負けを覚悟しかけたが,秒読みになり,相手の無理攻めが切れて,さあ,反撃というところで,相手の切れ負けで勝った。予想外にここまで5-1と,上々の成績となり,どんどん手合いがきつくなっていった。
4局目は,ウクライナの若者。横歩取りにしてきたので,これは45角の奇襲でいってみようと思った。定跡を知らないだろうと思ったからだ。とはいうものの,自分も実戦経験はなく,定跡はうろ覚えである。もともとこれは的確に対応すれば先手有利(つまり相手有利)ということなのだが,きっちり対応してきて,途中から私も定跡を忘れて悪手を連発し,お互い30分以上残したまま負けた。感想戦で,定跡の間違いを指摘されたのには情けなかった。北尾先生によれば,こういう古い定跡の方がヨーロッパで広まっていて研究していることが多いそうだ。確かに,角交換振り飛車はおろか,ゴキゲンですらあまり見かけなかった。
全対局が終わるともう19時を過ぎる。その後も,何人かが,長男に切れ負けの勝負を挑んできたりして,なかなか1日が長い。私も対局が終わってウロウロしてると,小さな男の子が「Play Shogi」と言いながら近づいてくるので,ときどき相手をした。将棋がやりたくて仕方がないという意欲のある子どもたちに出会えたのも大きな収穫だった。
指導対局も大人気だった。やはり日本のプロと対局する機会がめったにないということで,いつも人だかりができていた。下の写真は,中井女流が,ベラルーシの女の子を指導していたところ。右の女性が日英通訳し,奥の若者が英露通訳して,女の子に指導していた。
三日目
三日目ともなると,疲れが出てくるのだが,長男はまったくそんな様子はないようだ。
長男の1局目はフランス人,フォルタンさんで,ヨーロッパチャンピオン経験者。対局の内容はわからないが勝ち。この時点で,ほかに1敗もいなくなり,優勝が決まった。
2局目は,ESC準優勝者のロシア人,ザパラさん。勝って全勝で全日程を終えた。最後の日の2局は,かなり長い時間感想戦を行っていた。
上位者には,記録係がついていて,棋譜は即日ネットにアップされていた。長男も何局か棋譜が掲載されている。
http://euroshogi2013.by/en/games
この大会はニュースで放映されたりするなど,地元メディアにも注目を浴びていた。それぞれの映像で親子がちらっと写っている。
http://euroshogi2013.by/en/gallery#videos
私はもう3日目には完全に息切れしていた。1局目,2局目ともに地元ベラルーシの1,2級くらいの人と対局したが,あまりいいところなくどちらも負けた。トータル5-4ということで,最後3連敗で終わってスッキリしないところ。ベラルーシの将棋人口は80人くらいと聞いたが,その中で私より強い人が10人はいると思う。棋書も乏しく,ネットがあるとはいえ,環境としては恵まれていない中で,どうやってここまでみんな強くなるのか不思議だ。
表彰式は,前回のエントリで書いたように,エンターテイメント性が高い。U-8, U-10, U-12, U-14, U-16, U-18や,女性部門など,細かくカテゴライズした中でそれぞれトップを表彰した。名前をコールするときはボクシングのタイトルマッチのようだったし,スポットライトこそなかったが,音楽も盛り上げた。
表彰式が終わると,みんな長男と一緒に写真を撮りたいと言って集まってくれた。会場の警備員のオジサンまでも写真を撮ろうと言ってくれた。
これまでこのブログで何度か書いていたように,長男が将棋を始めてからというもの,自分自身のネットワークも広がった。まさか将棋を通じて国境を越えたネットワーキングができるとは思いもよらなかったことだ。長男と将棋,そして,現地で大会運営に尽力してくれたベラルーシのスタッフと,高田先生,中井先生,北尾先生に感謝しなければならない。
(追伸)
表彰式の様子
http://www.youtube.com/watch?v=smOfuF6fG74
公式プロモーションの映像
https://www.youtube.com/watch?v=C0xuHz6UXCY