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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

意匠法による画面デザインの保護(2)

前回は,現行法で画面デザインがどのように保護されるのか,著作権法,不競法,意匠法の観点から簡単に振り返った。今回はその続き。


前回はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/redips/20130201/1359647257

情報機器の画像について意匠権設定可能に

昨年11月の特許庁産業構造審議会知的財産政策部会意匠制度小委員会第21回参考資料5には,意匠法改正の方向性についてまとめられている。


それによると,

パソコンのように任意の機能を容易に追加できる物品を包含する情報機器という概念を新たに導入し、情報機器に用いられる画像は、物品に組み込まれる画像であるかアプリケーションソフト等の画像であるかを問わず、情報機器の画像の意匠権として権利設定可能とする。

とある。すなわち,今までは「物品」性要件によって,物品を離れた画像についてはほぼ意匠の対象になり得なかったところ,「情報機器の画像」という特殊カテゴリを設けて,意匠権の登録が可能になるというものである。


下図にするとわかりやすい(同参考資料6の図より編集・作成)。現在は左側のように,物品を特定し,その単位ごとに(★印)出願する必要があったところ,「情報機器」という単位で一つ出願すれば,広く情報機器全般についての画像が保護の対象となる。


特許庁の説明によれば,

・物品に組み込まれる画像デザインについては、従来どおり物品単位で意匠権を設定する。
・利用者が需要に応じ任意に機器に追加する画像を情報機器の画像として権利化可能とする。
・情報機器の画像の権利が、パソコン、スマートフォン等の組み込み画像にも効力を及ぼす。
・情報機器の画像と組み込み画像間では重複した権利が設定されることはない。

となっている。情報機器の画像とは,アプリケーションソフト,OS,ウェブページ等,物品と独立して制作される画像を想定している。


これにより,前回で示した図(下記)のBからHについても,意匠権登録の道が開かれることになる。例えば,スマホ用アプリの操作画面なども対象になってくる。

いくつかの問題点

まだ細かいことは決まっていないが,この段階でも,実務的には次のような論点が生じてくる。


【情報機器とは?】

現時点の資料では,「情報機器」とは,

利用者が需要に応じて任意の機能を容易に追加することができるもの 例:「パソコン」、「スマートフォン」、「タブレットPC」等

としているが,果たしてその外延が明確になるかは疑問だ。現に,最近ではAndroid家電なるものも登場しているし,テレビも情報処理端末として機能がどんどん拡張している。特許庁の資料にも,

情報機器の画像の権利は、冷蔵庫には及ばない。ただし、Android搭載冷蔵庫のアプリの画像のように、「『情報機器付き冷蔵庫』として捉え得るものの当該情報機器部分については権利が及ぶ。

と,すでに定義が微妙になりそうな説明もある(第21回参考資料6)。情報機器の画像として意匠登録を受けていれば,冷蔵庫のタッチパネルにその画像が使用されれば,権利行使可能ということになるのだろうか。


【「操作の用に供される」の扱い】

特許庁の説明によれば,「機能/操作要件」を維持すべきではないかという疑問について,次のように回答している*1

新たに保護対象とする『情報機器の画像』については、専ら操作の用に供する画像のみを保護対象とすることから、『操作』のためのものであることを登録の要件として要求するとともに、従前通り、画像の機能や用途を意匠の類否判断の際に考慮することとなる。

「専ら操作の用」の「専ら」がどこまで示すのか。単なる装飾画面(アプリやゲームの立ち上げ時に表示される静止画,動画など)は対象にならないのは明らかだが,最近では,装飾的要素の強い操作画面もゲームを中心に目立つ。「操作」のためのもの,という要件について,審査基準がどのように定められるのかも気になるところ。


【創作非容易性】

もともと意匠登録の要件として創作非容易性が挙げられる。どの程度まで創作性が高ければ登録されるのか。特許庁は審査基準に従って判断していくことになる。低すぎると,結局,大手企業が軒並み権利を抑えてしまって,中小のソフトウェアの開発自由度が低下してしまう。ハードルをあまり上げ過ぎると,ほとんど登録されるものはなくなってしまい,画面デザインの保護を図るという目的は骨抜きになってしまう。


特許庁の資料*2を見ると,「具体的な想定事例」にあげられているものは,パワーポイントのスライド作成画面であったり,ウェブページでも極めてありふれたものであったり,「もう10年前からあるよ,こんなの!」という例ばかりが挙げられていて,「上記のような場合について,創作性があるとするか否かを研究・検討する」としている。


果たしてこのような陳腐な例を念頭に置きながら審査基準を作成されてしまうと,エラくハードルが低くなるか,策定された基準には当てはまらない実例が多数出てくるのではないかということが危惧される。このあたりは,実務家,企業から,想定事例をどんどん挙げていきながら,審査基準の策定に意見していくことが必要だ。



次回は,画面デザインの意匠登録が拡大された場合における開発段階での留意点や,各団体の意見などに触れたいと思う。

*1:第21回会議参考資料8の意見(4)

*2:第21回会議参考資料6