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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

意匠法による画面デザインの保護(1)

昨年(平成24年)3月に日経新聞にて意匠法を改正し,画面デザイン等も保護されるよう拡大されるという記事が掲載され,話題になったが,その後しばらくはあまり話を聞かなくなった。


立ち消えになったというわけではなく,産業構造審議会 知的財産政策部会 意匠制度小委員会(名前長い・・)では,着々と意匠権の範囲の拡大に向けて議論が行われている。


そして,昨年11月には,改正の方向性が出された。どこまで拡大されるかはともかくとして,従来には考慮の必要すらなかったアプリケーションの画面デザインなどが意匠権によって保護される可能性が高まっている。この点について,ときどき質問を受けるようになってきて,関心も高まっていることから,少しまとめておきたいと思う。

画面デザインは著作権不正競争防止法で保護されるのでは?

画面デザインを真似された!という場面でまっさきに浮かぶのは著作権だろう。現に,昨年は,グリーvsモバゲーの釣りゲーム訴訟が大きく話題になった。その争点は,まさに魚の引き寄せ画面が著作権を侵害するかというところにあった。

(参考 http://d.hatena.ne.jp/redips+law/20120811/1344667791


当該裁判でも明らかになったように,一審では侵害とされたものが半年後の知財高裁で非侵害とされるなど,著作権の「創作性」「類似」の判断は難しい。そもそも,著作権は,工業所有権と違って登録によって権利が生ずるものではないから,世にどれだけの著作物があって権利者が誰なのか,というのはまったくわからない*1


また,不正競争防止法の定める不正競争行為(2条1項1号の商品等表示)によって保護するということも考えられるが,実際には画面そのものが,ロゴ,包装などのように自他識別力を有する「商品等表示」に該当するケースはほとんどないので,実際には,不正競争防止法で保護されるケースはあまりないだろう*2

現行意匠法では画面デザインは保護されないのか?

現行の意匠法でも画面デザインがいっさい保護されないわけではない。意匠法2条2項には,

(意匠には)物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれる

としている。ただ,この表記は一般の方にはわかりにくいので,特許庁の審査基準もあわせて,現行法によって登録可能とされる画面デザインの範囲をもう少し詳しく掘り下げる。


その際,ネックになるのは,「物品性」と「機能・操作要件」だ。あまり細かいところには立ち入らないが,現行意匠法はあくまで「物品」のデザインを保護するものなので,物品を離れた画像は含まれない。


特許庁の資料(上記委員会第18回資料別紙1)でうまく整理してあるので,該当箇所を張り付ける(見にくいので,オリジナルは http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/isyou18/06.pdf 参照)。

これによると,画像を3つの切り口で分けている。一つ目は,「汎用機/専用機」。汎用機の画像は,物品とリンクしていないので,対象外となる。二つ目は「あらかじめ記録/あとから記録」。物品の成立に不可欠なものしか保護されないから「あとから記録」される(物品の工場出荷時に記録されていないもの)は,対象外となる。そして三つ目は「組込/独立創作」。サードパーティが作るアプリケーションについては,やはり物品の成立に不可欠ではないので,対象外となる。


そうなると,上記表のように,「専用機」&「あらかじめ記録」&「組込」の場合だけ保護される。そもそも,このIT社会において,あらかじめ記録されているかそうでないか,ということや,物品から独立創作されたものとそうでないもので線を引くことがナンセンスであることは業界の方でなくとも理解してもらえるだろう。また,専用機,汎用機の境目もなくなりつつある。上記資料では「携帯電話」は「専用機」として整理されているが,今やフィーチャーフォンであっても多機能であり,カスタマイズの幅も広いから汎用機といえるのではないか。


少なくとも今は,上記のような極めて限定された場合にのみ,画面デザインが意匠として登録されるようになっている。その結果,事実上は,情報機器を製造するハードウェアメーカーが,自ら作るOS等の組込の画面くらいしか保護されない*3。ちなみにiPhoneで使われるフリック入力の画面などは意匠登録されている。


では,どのような改正が行われようとしているのかといった話は次回以降に(いつ書けることやら・・)。

*1:とはいえ,意匠のように登録制度のもとで保護すれば,予測可能性が高まるかというと実はそうでもない。その点については別途。

*2:釣りゲーム事件でも主張されているが,原審,控訴審とも商品等表示にあたらないとされている。

*3:典型的には液晶表示のデジタル時計,エレベータの表示板など,かなりハードウェアと一体化したものが想定されている。