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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

違法ダウンロード刑罰化の話(著作権法30条周りの構造について)

今さらではあるけれど,違法著作物をダウンロードすると刑罰の対象となる,という今回の著作権法改正について,簡単に整理。


まず,著作権というのは,大ざっぱに言えば,著作権者が,著作物の「利用」をコントロールすることができる権利だといえる。つまり他人が無断で,その著作物を「利用」していれば,それを禁止することができる権利。「利用」とは,著作権法21条から28条に列挙されている行為をいうが,その典型例としては21条の「複製」だ。


つまり,21条の

著作者は,その著作物を複製する権利を専有する。

とあるように,他人が著作物を複製*1しようとしたら「やめなさい」ということができる(下記図において,青い領域に排他権が及ぶ)。さらには,著作権侵害行為には,罰則もある。


ところが,権利者の侵害の程度と,利用者の利便性を考慮し,一定の「利用」行為については著作権が及ばないとされている(30条以下)。その代表例が,「私的使用目的の複製」で,個人的,家庭内で使用することを目的とする複製ができるとされている(30条1項本文)。

これは,例えば,自分が買った正規CDを自宅のPCに取り込んでiPodに入れる行為は,2度の「複製」が存在するが,個人的な視聴を目的とする限りは適法とされる*2。いわば,下記図において,白い領域については複製行為を行っても「例外的に」違法にならない。


私的使用目的の複製であっても,従来から,一定の行為については違法とされていた(例えば,店頭に高速ダビングマシーンのようなものが置かれていて,それで複製するような場合(30条1項1号)や,映画館において持ち込んだビデオカメラ等で録画する行為(映画盗撮防止法4条)など。)。

そこに,平成21年の著作権法改正で,「例外の例外」として,違法アップロードされた著作物をデジタル方式で録音録画する行為が追加された(30条1項3号)。

著作権を侵害する自動公衆送信(カッコ内略)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を,その事実を知りながら行う場合


これはつまり,違法にアップロードされた著作物を,違法アップロードされたものであると知りながら,デジタル方式で「録音」又は「録画」の方法によって,複製する行為をいう*3。デジタル方式の「録音」「録画」以外の方法については,対象外となる。例えば,仮にソフトウェアが違法アップロードされていて,これをダウンロードしたとしても,私的使用目的であれば違法ではない*4


これにより,下記図において,中央の青い領域はやはり違法とされた。ただし,刑罰の対象からは外された(119条)。


そして,今回の改正で,違法ダウンロード行為が刑罰の対象となった(新設119条3項)。これは,単純に,上記で違法とされた行為がすべて刑罰の対象になるというわけではない。

第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(カッコ内略)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(カッコ内略)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を,自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

対象は「有償著作物等」。その定義はカッコ内に長々とあり,ここでは割愛するが,文化庁の解説によれば,無償で放映されているテレビ番組などは対象外であり*5,有償で販売されているCD,DVD等に収録されている音楽,映画などが対象となる。


著作権を侵害する自動公衆送信・・を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を,その事実を知りながら行う」という部分は,30条1項3号と同じ文言となっている。


これを図に示すと,次のような感じ。


この結果,改正後の著作権法の元では,私的使用目的の複製であっても,

  • 適法なもの(テレビ番組を録画する等)
  • 違法だが刑事罰の対象ではないもの(違法にアップロードされた(有償でない)テレビ番組をネットからダウンロードする/市販の漫画本を違法に撮影した動画をネットからダウンロードする等*6
  • 違法かつ刑事罰の対象となるもの(市販のCD等の音楽が違法にアップロードされていて,これをダウンロードする等)

の3種類存在することになる。複雑。

*1:複製の定義は,著作権法2条15号で「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」とされている。

*2:ただし,コピーコントロールを回避するような複製行為には規制がある。

*3:録音,録画の定義は,著作権法2条1項13号,14号にある。

*4:ソフトウェアといっても,ゲームなどの場合,そこに音楽,映像が存在し,「録音」「録画」行為が存在しうる。

*5:NHKオンデマンドで配信されている番組ならば,有償著作物に当たり得る。

*6:文化庁によるQ&A参照 → http://www.bunka.go.jp/chosakuken/24_houkaisei.html の問7-2