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弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

社外監査役と不正の認識・対応(オルツの件を受けて)

2024年10月にグロース市場に上場したばかりの株式会社オルツが、わずか半年後の2025年4月には粉飾疑惑が発覚し、7月25日に公表された第三者委員会の調査報告書(以下「本件報告書」)によれば、最大で売上の9割以上が水増しされていたという衝撃的な内容でした。そして、同月30日には、同社が民事再生手続開始の申立てを行ったという報道もありました。

【第三者委員会の調査報告書】

www.nikkei.com

私自身、これまでスタンダード、グロース上場企業を含め、スタートアップ企業の社外監査役や監査等委員である取締役を10社ほど務めてきて、実際に、その中には残念ながら不正会計疑惑や、犯罪行為による不正が行われたという事件も起きました。

今後も自分が関与する会社において同種のことが起きる可能性がゼロではなく、オルツの件も対岸の火事だとはとても思えません。

オルツの監査役会(常勤監査役1名、社外監査役2名)は、本件報告書によれば、疑惑の取引そのものに直接関わったということは認定されていませんが、次のような認定がなされています(63頁)。

  • 前任の監査法人から循環取引の疑惑について指摘があったとの説明を取締役会で受けたが、会社からの説明に納得した
  • 後任の監査法人の監査報告を受けて循環取引の疑惑は解消されたと認識した
  • CFOの依頼を受けて、常勤監査役が全株主に対し、前任の監査法人が監査継続困難だと表明した件について、自ら証憑等を確認し、監査報告書が適正である旨などを内容とする調査報告書と題する書面を送付した
  • しかし、前任の監査法人に対して提出した証憑を改めて精査・確認することはしていなかった
  • 循環取引は重点監査項目になっていなかった

また、後任の監査法人は、前任の監査法人から「循環取引の疑惑」を指摘されていたものの、商流を変更し、グループ内の取引を解消させたことから、問題ないと認識し、決算数値に疑念を抱かなかったとしています(66頁)。

この点について、第三者委員会の社外役員・監査役に対する指摘は、前任の監査法人から循環取引の疑義について指摘を受けているのだから「なお牽制機能を発揮することのできるチャンスが皆無であったとまではいえないのではないかと思われる」(96頁)と、(代表者、CFOに対しては極めて厳しい指摘がなされているのと比べると)マイルドなものにとどまっていました。

ただし、第三者委員会は、パーソナルAIという一見すると最先端の事業であるにもかかわらず、社外役員・監査役らが、この種の事業に「造詣が深かったかというと、必ずしもそうとはいい切れない」(97頁)と指摘しており、対象事業に明るくなかったから問題を見抜くことができなかったということを示唆しています。

通常、監査法人から「循環取引の疑いあり」という指摘があることは異常事態ですし、循環取引の手法そのものは古典的なものであるから、その後の経過も含めて、新任の監査法人とともに重点監査項目として継続的にウォッチして、経営陣から煙たがられるくらいに食い下がっても良かったのではないかと思われます。

最近、人材業界などから「「社外取締役」という新たなキャリアパス:成功の秘密とその魅力」「セカンドキャリアで「社外取締役」を目指すための基礎知識」などのキラキラした記事(敢えてリンクは貼りません)が目立つようになって、社外役員は「おいしい」キャリアの一つであるとされている状況が憂慮されます。社外役員は、時に経営者に反してでも厳しいことを指摘し、「いつでも辞任しても構わない。解任してもらって構わない。」というスタンスで臨まなければならないですから、安定した「セカンドキャリア」ポジションとは矛盾します。本件のような事例をきっかけに、社外役員・監査役人材の選任について、経営者や株主の目も厳しくなっていってもらいたいものです。

本件については、私がよく勉強させていただいている大泉先生の「監査役ニュース」が取り上げている内容にも共感します。

corporateauditor.blog.jp

本件について社外監査役の視点から思うところは以上ですが、主幹事証券会社に対し、資料を改ざんして提出していたとの事実が認定されていたのは驚愕でした(78頁)。上場承認後に、主幹事証券会社から、互いに商品・サービスを購入するという交換条件を定めている取引(バーター取引)について、調査が必要だとの指摘を受けて、問題がある場合には上場延期になるとの指摘もされていました。

そこで、主幹事証券会社から依頼された業務委託契約書を提出するにあたって、CFO(本件報告書公表後に社長に就任)の指示の元、

  • 締結済みの契約書の元となったワードファイルから、バーター取引に関する部分を削除
  • 締結済みの契約書データから押印部分を切り取ってワードファイルに貼り付けて、PDFに変換
  • そのPDFを実際に締結した契約書であると説明して送付

するという、わかりやすい偽造を行いました。主幹事証券会社は、「電子署名等が分かる形式で提出してほしい」と指摘し(この時点で、だいぶ怪しんでいたのでしょう)、「合意締結証明書」*1にも手を加えて送付しています。

その後も、関連する書類の提出を依頼されると、一部の取引について除外したり、取引先とのやり取りのメールの内容なども改ざんして提出されました。まったく笑えない話ですが、生々しい偽造を巡るslack等のやり取りを読んで、脳内で映像化されました。

これらの対応も含め、第三者委員会は、「このような経緯があるにもかかわらず、当社が上場を果たし、不特定多数の投資家の投資対象となるに至ったことは、誠に遺憾である」との厳しい評価を下しています。

*1:電子契約ツール上で発行される契約が締結されたことを証明する書類であり、契約書のタイトル、ファイル名、書類ID、締結当事者、締結日時等が記載されている[本件報告書80頁の注より]