Footprints

弁護士・伊藤雅浩による仕事・趣味・その他雑多なことを綴るブログ(2005年3月開設)

名人に香車を引いた男

升田幸三自伝を読んだ。


名人に香車を引いた男―升田幸三自伝 (中公文庫)

名人に香車を引いた男―升田幸三自伝 (中公文庫)


将棋ファンならだれでも知っている升田幸三実力制四代名人。陣屋事件ほか,破天荒な人物像が語られることはあるが,私のようなにわか将棋ファンは当然現役時代も知らないし,人物像についてもよく知らない。


今年の2月,NHKの「こだわり人物列伝〜升田幸三」で4週にわたって紹介されたこともあり,多少の予備知識はあったが,ひととおり読んでみて戦前から戦後にかけての将棋界の状況もわかり,面白い。


本人も認めているとおり,あやふやな記憶をもとに語り下ろしているから,ホントか?と思える記述もあるが(特に,プロを志して大道詰将棋で食いつないでいた時期の話など),木村,大山といった巨人を相手に,勝負への執着心などは本人が語っているだけに,臨場感がある。


今のプロ棋士は,普通に学校に行けばエリートになること間違いなし,礼儀もよく頭もよい,というイメージだが(実際に大学での勉学と両立している棋士は多い。),この時代のプロ棋士は,ばくち打ちなどと変わらないような得体のしれない存在だったようだ。待遇もよくなく,生活状況は苦しそう。だからこそ,勝負,ドラマも生まれやすいのだろう。


各章末にポイントとなる棋譜と自戦解説がついていた。まだあまり並べていないが,例の大山名人に「香車を引いた」対局も載っている。